卓話
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卓話『日本酒という職業』2026年6月8日
株式会社岡永 代表取締役社長 兼 日本名門酒会本部 本部長 飯田 永介様
岡永は岡本屋飯田永吉商店という名前で明治17年に創業しました。1972年から1974年が日本酒のピークの時で、ここから少しずつ日本酒離れが起こりながら、ファンが離れていきました。そんな中わたしの父である3代目社長飯田博の、日本酒を中心とした強い専門店を作りたい、消費者啓蒙を果たしていきたい、良い酒を佳い人に、という思いから昭和1975年に日本名門酒会を立ち上げ、現在では加盟酒販店1500件という大きな地酒販売組織となりました。
日本酒の総量は1974年のピーク時には970万石あったものが(1石は一升瓶100本)、現在は204万石と1/4以下になってしまい、現在もまだ下がりつつあります。また酒販店さんや町の酒屋さんの数もここ50年で激減しており、2003年の規制緩和によりお酒の小売り免許が実質自由化されたことで、代わりに増えたものはコンビニエンスストアやドラッグストアです。ですから免許状数は変わりませんが、酒屋さんの数が減っているという現状です。そしてお客様の変化として、実は日本酒を飲んだことがないという方が増えており、特に若い方はアルコール離れも含め、体質的に飲めてもあえて飲まないソーバーキュリアスという人たちも増えてきました。
そんな中で日本酒はずいぶん変わりました。しかし間違いなく言えることは、長い日本酒の歴史の中で今が一番おいしいということです。技術革新を繰り返し、品質は今が最高だと思っていただいて構いません。
なぜこんなにおいしくなったのでしょうか。その理由は技術と品質が完全にオープンになったからです。それまでは、蔵の外には一切漏らさない、杜氏組合の中で守るという風潮でしたが、現在は蔵見学も全部見せ、意見交換や情報交換を行い、技術交流によって品質が上がり、その中で若い造り手たちは台頭してきています。また、大正から昭和にかけて日本酒造りはホーロータンクへと劇的な進化を遂げ、省力化して大量生産をしていましたが、今あえてそれを生酛造りという江戸時代からの製法や、木桶造りに戻すという動きも出てきています。それは、ここに発酵の原点があるからです。微生物が主役ということを昔の製法が教えてくれるのです。
現在発泡性の清酒など様々なお酒が出ていて、またラグジュアリーブランドも登場し、百花繚乱の時代を迎えています。輸出は順調で、この10年間で5倍に伸びています。日本酒の市場の中で底辺が伸びているのは輸出しかないので、これから伸ばしていくのも海外に向けての市場しかないと思っています。
そして今一番大切なことはお米です。令和の米騒動で一般米がどんどん値上がりしたことにより酒造好適米を作っていた契約農家が一般米にシフトしてしまいました。価格は1.5倍から2倍になり、酒米が足りていません。地域の農業とどれだけ密接に関係を持てるかがこれからは問われることになると考えていて、環境も含めて酒蔵には責任があるということを認識しながら、農業との関係も真正面から向き合わなといけないのだろうと思います。
お酒の価格は今までのように横並びではなく、地域や蔵によって変わってきます。純米吟醸酒や純米酒といった特定名称酒の価格の概念が崩れてきているので、蔵の独自性を明確に打ち出していかないと、これからマーケットが作れなくなります。
我々卸としては、メーカーと販売者両方に近くなければいけないということで、年に1度メーカー100社と技術交流会を行っています。杜氏と技術者が集まって研修を受け、意見や情報を交換し、懇親会では持ち寄ったお酒を飲んで評価をし合います。お互いにやり取りをすることで関係が活き、品質と技術をオープンにすることで業界全体がいい方向へ向かうのではないかと考えています。
販売に関しては全国大会を年に1度必ず開催し、全国の酒販店さんが集まって試飲体験を行っています。また加盟店の店頭での試飲即売会も50年以上前からずっと繰り返し行っており、お客様と加盟店の繋がりを大切にしています。
日本酒の特性は、季節性と地域性です。冬から春にかけて絞りたての生酒、春先には少し柔らかい春和酒、夏には生酒や夏涼酒、秋にはひやおろしというように、その季節の中でお酒はどんどん変わっていきます。四季がある日本で食に携わる者として、季節に合うお酒を提案していきたいのです。そしてやはりお酒は地域で活きていきます。酒蔵の周りに酒販店があって一緒に社会を作っている、地域完結型の経済活動です。我々は、2月4日の立春の早朝に絞ったお酒をその日のうちに予約していただいたお客様にお届けするという立春朝絞りを30年続けています。蔵元では無病息災、商売繁盛など、お客様の1年間の幸せを祈りながらお祓いを受け、お客様にお届けします。とても大変ですが、お客様が地域の酒蔵を身近に感じることができるように、一見無駄に見えるようなことをしっかりやっていくことで、誰にも真似できないものが仕上がるのだと思います。お客様からありがとうの言葉をいただくと、売り買いを超えたお互い様の関係となり、これが商売の原点だと思っています。そしてこのような新しい伝統行事を大切にしていかなければいけないと気付かされます。
現在は新たな飲み手を作ることにも力を入れています。お酒に関係のないイベントにも参加し、我々の活動はまだまだ足りていないと感じることもありますが、それが今後のテーマとして活かせるようにしていかなければいけないと思っています。
卸の仕事は、価値を広めていくことだと考えています。価値は身近なところにありますが、それを掘り起こしながら仲間を増やし、日本酒の価値文化を形にして広めていくことが役割です。価値創造型のサプライチェーンを目指し、日本酒という文化を形にするために、どのようなビジネスで捉えていくべきかという気持ちを持っておかないといけないと思っています。
ご清聴ありがとうございました。
卓話『AI時代の経営のあり方』2026年5月25日
シナモンAI代表取締役社長 平野 未来様
わたしがAIを研究するようになったのは20年前です。当時データが爆発的に増えてきた中で、無限のデータと有限の人間の認知を繋ぐものとしてAIが必要になるだろうと思い研究をはじめました。
人とAIの違いを聞かれることが多いですが、ポイントが3つあります。ひとつは感情です。最近は進化をしているので感情があるように振舞うこともありますが、これまで人間がアウトプットしてきたものを学習しているだけで、AI自体が感情を持っているわけではありません。そしてAIは意志を持つことができないので、AIに乗っ取られるなどと言われることもありますが、それはないと思います。チャットGPTはただただ次の単語を予測しているに過ぎず、意志を持っているわけではありません。意志は人間しか持てないもので、今後もっとも大事な要素だと思います。最後は身体です。細胞があって血が流れているわたしがこの場でお話をすることと、ロボットが話をすることは、おそらく感じ方が違います、それはわたしの身振り手振りや表情で感じ取れるものがあるからです。わたしが意志に注目しはじめたのは、チャットGPTが出たころでした。それ以前のAIの進化はまだまだ遅く、しかしチャットGPTが出てからはものすごい勢いで進化していきました。今後は、人間が意志を持つとAIがどんどん叶えてくれる時代になるだろうと考えています。
わたしたちは、人の意志と判断を支える組織の知能拡張プラットフォームを作ろうとしています。知能拡張プラットフォームとは、紙をデジタル化して構造データを抽出するOCRと、データをナレッジ化して難しい検索も可能にするRAG、複雑なものも簡単に作れるようにするAIエージェントの技術要素を足したものです。これらを組み合わせ、一気通貫してナレッジに関する様々な業務を自立処理することを考えています。
これから人とAIが一緒に働くことが多くなると言われている中で、それはどのような形なのでしょうか。これは意志、判断、実行という3つの層に分けられます。意志は人間しか持ち得ないので人間が行い、実行は基本的にAIに任せます。難しいのは判断で、どのように設計していくかがこれから人とAIが一緒に働いていく姿を実現するレバレッジ・ポイントになります。判断には3種類あり、一貫性や再現性が実返できる、要するにマニュアルに落とせるかというルールは、優秀であるが故マニュアル化が徹底されていない日本にとってはこれから必要になると思います。しっかりドキュメントが書かれ言語化されていることが判断の重要なポイントです。複数の価値観や複数の意志が衝突するトレードオフは、案を出すことしかできないAIが判断をすることはできません。結果どうしていくのかは人間にしか決められません。そして日々起きる想定外の出来事もまたAIが行うよりも、責任主体をはっきりさせて人間が対応していくべきところだと思います。
これまで競争優位というのは、いかにお客様を抱えているか、いかに財務資本が厚いかが源泉になりがちでしたが、これからAIがどんどん仕事をしてくれるような世の中になってくると、意志を持つこと、意志がどれだけクリアであるかが、より競争優位の源泉になっていくだろうと考えています。とくに経営者にとってAIがもたらす価値は、情報の非対称性の解消や、脳のメモリを空けて本質に集中できるようになる認知の開放、さらに自分ひとりではたどり着けなかった思考や判断の質に到達できる認知の拡張など、単純に業務の効率化だけには留まらず、経済合理性の最大化にも繋がっていきます。
AIというのは増幅器です。意志がクリアな状態でAIを使うといい形で影響が大きくなりますが、意志が濁った状態で使うと悪い状況で拡大化されていきます。意志を持てるのは人間だけですが、経営者がクリアな状態で意志を持つことが重要だと考えています。また認知拡張には深さもあり、AIと話をしているうちに自分の戦略の盲点に気が付いたり、違う形が見えてきたりします。そして自分がまだ問えていなかった問気に気付くことができる、AIが思考パートナーになってくれます。
紙飛行機が自分の目の前にあることを想像してください。紙飛行機の上に、自分はこうしたいという意思を乗せます。そして紙飛行機を自分の意志の力で前に飛ばしてみてください。ひたすら飛んで行った場合は意志が完全にクリアな場合です。飛び方がいまいちだった場合は他人軸が入っています。すぐに落ちてしまった場合は自分に嘘をついています。これはわたしが見つけた紙飛行機メソッドです。これまでの経験上、意志が完全にクリアな時は物事がどんどん実現されてきました。クリアではない時は、自分の理想像から割り引かれて実現されていきました。意志がクリアではない時はどうしたらいいのかを考えていくメソッドとして、心をすませばという本を出版しておりますので、ご興味があれば読んでいただけたら嬉しいです。
ご清聴ありがとうございました。
卓話『-若者の孤立を防ぐ-未来に希望を持てる社会を目指す取り組み』2026年5月18日
認定NPO法人D×P 理事長 今井 紀明様
わたしは22年前のイラク人質事件の生き残りです。当時バッシングもたくさんあり、自己責任論が問われました。反省すべきことも多くある中で多くの方に助けていただき、それを運が良かったで終わらせたくないと思い、認定NPO法人D×Pを立ち上げ、今年で15期目になります。
D×PはDreamとPossibilityをかけるという意味です。個人だけでも7000人、法人も200社以上と契約をさせていただいていて、年間予算3.7億円のうち約90%が寄付によって運営しています。多くの方にご支援をいただいており、またYouTubeやテレビなどでも活動を取り上げていただいています。
設立当初から、「一人ひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会を作っていこう」という思いで活動をしており、その中で特に10代の孤立に着目しています。子ども食堂は現在1万個所以上に増え、NPOも増えてきましたが、今課題としてあるのは貧困だけではありません。現在小中高校生の不登校の数が過去最多で、少子化にも関わらずここ数年単位でも2倍近くに増えています。また虐待や自死者の数も過去最多で、子どもたちを取り巻く環境というのはお金だけではなく、頼り先がないということなのだと考えました。家庭と学校に頼れなかったら子どもたちにはセーフティネットがありません。ですので、D×Pは多くの寄付をいただいている中で、企業や行政、国が手を付けていない、なかなかできないことを解決しようと活動してきたことが現在の事業に繋がっています。
独自で行っているオンライン相談の現場では、おそらく皆さんの想像よりも多くの数の相談が寄せられます。親にお金を取られている、また親御さん自身が精神疾患の当事者という理由で、家事をしながら学校に通っている若者も少なくありません。LINEで繋がって相談を受け、卒業や就職など制度に繋がるまでのサポートを一気通貫として様々な機関と連携しながら行い、現在までに登録者は2万人を超えました。支援の内容としては、周囲に頼ることができず生活に困窮し、滞納や借金などの問題に直面しているような相談の割合が5割ほどあるため給付金で状況を改善していくということと、食糧支援を行っています。支援をしていた子が看護師になり、寄付をしましたと連絡が来た時には、嬉しい気持ちでいっぱいでした。オンライン相談は繁華街の支援とはまったく別で、自分で繋がって問題の言語化ができる子が多いので、学業継続や就職など支援の結果が出やすいです。現在ではD×Pの支援がきっかけで、国としてもオンライン相談に向けた動きや学生支援の予算をつけるなど、徐々に進んでいるところです。
D×Pは、自分たちからは絶対に大人と繋がらない子どもたちの支援を大阪でも数少ないかたちでやっています。2020年のコロナ禍、学校や家に居場所がない子たちが繁華街に流れてきて、グリコの看板の下でコミュニティを作り始めました。それがグリ下です。繁華街は性犯罪や性的搾取、オーバードーズなどのトラブルに巻き込まれやすい現場です。わたしたちは2022年からテントを出し始めたのですが、最初は反社会的なグループとのトラブルにつながるリスクも懸念していましたが、企業や商店街の組合、自治体など、色々なところに挨拶に行ってスタートしました。どんなに暑くても寒くてもテントを出して食事の提供などをした結果たくさんの子が来てくれるようになり、徐々に広がっていきました。
子どもたちはすごくしんどい経験をしてきていました。虐待、性虐待、経済的搾取など、学校で相談してもなかなか対応してくれなかったというような経験もあったようです。住居がなく友達や男性の家を転々としている子も少なくなく、これはテントだけでは対応できないと、2023年に7000万円をかけて独自で支援拠点ユースセンターを立ち上げました。週2回のオープンだけで年間5000人に利用されています。食事をしばらく食べていない子が来たり、オーバードーズで救急車を呼んだりと本当に大変ですが、その大変な現場を社会福祉士や精神保健福祉士、元学校教員などのスタッフが担ってくれています。
ここは相談機関ではありません。相談機関としてしまうと子どもたちにとってハードルが高くなってしまうので、最初は居場所として活用してもらい、結果相談に繋がるようにしているのが特徴です。地域の組合にも入り、ゴミ拾い活動や秋祭り、地域のカラオケ大会などにも参加しています。しかし初めて来た子が相談に至るまで長い月日が必要な場合が多く、すぐに目に見える形で結果が出ないため厳しい現場だなと日々思っています。
D×Pはとにかく連携する機関が多く、わたしたちはあくまでも場所を持っていて、相談できる機関を提供しているのですが、その支援がきっかけで大阪市が住居支援に踏み出してくれました。また妊娠相談や各種行政のサポートもできるようにしていて、行政機関の方にも来ていただきやすい場になってきたかなと思います。
繁華街は犯罪に巻き込まれやすく、ユースセンターの設置により、犯罪に巻き込まれにくくする、福祉や医療機関に頼りやすくできる現場を民間から作っていこうとしています。成果として大きかったのは大阪府知事と大阪市長が、大阪市が主催する「グリ下会議」にお越しくださり、協定を結んで住居支援に動いてくれたことです。また去年こども家庭庁でも予算化され、福岡県でも対策されるようになりました。東京都では独自で2億円の予算をつけて、きみまもという相談窓口を開設し、D×Pの事業も参考にしていただいています。
わたし自身生き残って22年目になりますが、家族、友人、たくさんの方々のおかげでD×Pを立ち上げ、本当に多くの方々や民間の資金で成り立ってきました。今、札幌や名古屋でもグリ下と同じような現象が起きています。個人法人ともに今後ともご支援いただき、民間からセーフティネットを作っていくという意味で、国や行政ができないことに参画していただけると嬉しく思います。
本日はご縁をいただきありがとうございました。