卓話
2026年01月
卓話『「受けるより与える方が幸いなり」〜ロータリーのウクライナ支援〜』2026年1月26日
浅田屋伊兵衛商店株式会社 代表取締役 浅田 松太様
「受けるより与える方が幸いなり」与えることの豊かさは、他者への思いやりや慈しみの心にも深く通底するものです。そして何よりわたしたちロータリアンが日々の指針とするモットー、超我の奉仕そのものでもあります。
わたしは今から43年前、ロータリーの青少年交換留学生としてカナダに1年間派遣していただきました。世界がいかに広く、人の善意がいかに深いかを知らないひとりの若者であったわたしは、見返りを一切求めずにただ与えてくださるホストファミリーロータリアンの存在とその世界的なネットワークの広さに心から驚き、感動しました。この時受けた大きな恩恵はロータリーの与える精神そのもので、この経験がわたしにロータリー素晴らしさを教え、いつか次の世代に繋いでいきたいという思いを強く抱かせてくれたのです。ではなぜ与えることはこれほどまでに人の心を打ち、幸福感をもたらすのでしょうか。心理的な喜びもありますが、東洋の仁の精神、つまり他者の幸せを願い、そのために行動することが巡り巡って自身の人間性を高め、心の平安や真の幸福に繋がるという考え方に共感しています。ロータリーの活動はまさにこの精神を実践する場なのだと思います。
現在、東京北ロータリークラブ創立75周年記念事業の実行委員長として、ロシアによる侵攻で困難な状況にあるウクライナの子どもたちにコンテナ食堂を寄贈するというプロジェクトを推進しています。2025年9月、ウクライナ支援プロジェクトの具体的な打ち合わせでポーランドを訪れた際に、深い愛情に満ちたおもてなしを受けた瞬間、カナダでわたしを支えてくださったホストファミリーとの記憶が鮮明に甦りました。国や文化が違っても、そして長い時が流れても、ロータリーが根底に持つフェローシップの本質は全く変わっていませんでした。この国境を越えた温かな繋がりこそ、ロータリーでしか体験できない、人生における最も貴重な機会ではないでしょうか。そしてウクライナ支援プロジェクトもまた、かつてわたしがカナダで受け取った恩が時空を超えて形を変え、新たな幸いとして実を結ぼうとしているプロセスなのだと改めて実感しました。
今回の支援は、大阪の高槻市へ留学した経験を持つポーランドのヴロツワフノブンロータリークラブのヘンリックさんがウクライナ避難民の子どもたちのためにUkraine Kids Med Care Projectを提唱されたことが大きなきっかけです。
2024年7月2日にご逝去された近藤眞道さんは、大阪府高槻市で1300年近い歴史を持つ古刹、神峯山寺の第18世ご住職であり、ヘンリックさんが留学していた時のホストファザーでした。わたしも、そしてプロジェクトを一緒に進めている金沢ロータリークラブ会長の北川さんもローテックスとして近藤ご住職には大変お世話になり、多くのことを学ばせていただきました。それだけではなく、青少年交換プログラムの統括組織のアドバイザーとして長年に渡り力強く支援してこられた近藤ご住職は、ウクライナ戦争孤児のために活用してほしいという尊いご遺言と共に、約1万ユーロの資金を委ねてくださいました。この御遺志の重みを深く受け止めています。
近藤ご住職をはじめとする多くのロータリアンの深い愛情とご指導の下に設立されたのが、ローテックスで構成される東京北Exchangeロータリー衛星クラブです。彼らが中心となり、ロシアのウクライナ侵攻からわずか3ヶ月というスピードで支援金をポーランドへ送金しました。ローテックスのネットワークと行動力、そして世代を超えた絆が危機の中で大きな力を発揮したのです。ヘンリックと衛星クラブ、そして共に近藤ご住職の薫陶を受けた者同士がこのプロジェクトで手を取り合うことになりました。
また東京北ロータリークラブが受け入れたウクライナからの留学生クセニアさんとの出会いも、繋がりと支援の思いをさらに強くさせてくれました。クセニアさんの受け入れはまさにクラブ全体の与える精神の表れでした。紛争下にある故郷を遠く離れて過ごす彼女の不安な気持ちに寄り添い、与えるという行動がひとりの若者の人生に光を灯し、そして大きな幸いと活動への新たな動機を与えてくれました。
2024年2月17日、来日したヘンリックさんとともに神峯山寺を訪問しました。この時はまだお元気でいらした近藤ご住職にも同席いただき、ミーティングを行いました。近藤ご住職はウクライナの窮状と支援への思いに深く耳を傾けられており、日本の青少年交換の礎を築かれたご住職が背中を押してくださったこの日の話し合いが、わたしたちの結束を固める大切なきかっけとなりました。その後より確実な支援を行うため2024年11月にポーランドを訪問しました。現地のヴロツワフノブンロータリークラブのメンバーと直接意見交換を行い、その誠実な姿勢と実行力を確認できたことで、わたしたちはコンテナ食堂プロジェクトを推進する判断をしました。こうした様々な経緯を背景として、現在75周年記念事業としてプロジェクトを推進しています。
わたしたちが贈る食堂は、単なる食事の場所だけではなく、家庭の温かさを取り戻すための心の居場所となるものです。それは戦争でのトラウマを抱えた子どもたちの感情的な発達においてなにものにも代えがたい投資です。日本全国のロータリアンへ支援を呼びかけた結果、2025年9月17日時点で497万620円もの温かい寄付が寄せられました。長きに渡り育んできたメンバーとの絆が強固な支えとなり、ウクライナの子どもたちへの支援として形になりました。さらにこの支援を確固たる国際奉仕の基盤とするため、2025年12月にはヴロツワフノブンロータリークラブ、金沢ロータリークラブ、東京北ロータリークラブの3クラブにおいて正式な合意書を締結し、国境を越えた友情と協力を絶え間なく続けていくことを約束しました。これはロータリーの普遍的な価値観である奉仕、誠実、親睦を体現し、困難な状況にあるコミュニティのために手を取り合うという善意と信頼の証に他なりません。40年以上前の交換留学のご縁、神峯山寺での近藤ご住職を交えた対話、現地ポーランドでの視察に基づいた判断、なにより全国のロータリアンの皆様との固い絆によって形になったものです。
本事業を通じて、わたしは国境を越えたロータリーのフェローシップがいかに温かく、力強いものであるかを改めて学びました。志、迅速な行動、交流さらに連帯が繋がり、ロータリーの超我の奉仕というひとつの行動となりました。青少年交換プログラムが持つ価値は、このように世代や国境、さらには人間の精神を超えて受け継がれ、具体的な奉仕活動へと身を結ぶ点にあります。近藤ご住職がわたしたちに示してくださったように、個人の経験が仲間とのフェローシップを通じてロータリーの4つのテストに導かれながら、具体的な奉仕活動へと繋がっていく、わたしたちはこの素晴らしい襷を受け継いでいく必要があります。
ウクライナ支援プロジェクトは近藤ご住職の思いを胸に、この春に大きな結実を迎えます。しかしわたしたちの奉仕活動に終わりはありません。これからも価値観を共有し、喜びを分かち合う奉仕活動を続けてまいりたいと思います。春にウクライナの地で子どもたちの笑顔が輝く時、その喜びは皆様と共にあると思います。
ご清聴ありがとうございました。