「感謝とリスペクトで紡ぐ明るい未来」

国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2024年4月

卓話『渋沢栄一の「論語と算盤」で未来を拓く』令和6年4月15日

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋沢 健様

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 渋沢 健様

現在、日本政府の政策は社会的課題を解決するスタートアップを推しています。実際、2、30年とは違い、社会的イノベーションを促すスタートアップが存在感を示しています。ただ、これは現在のことだけでなく、150年ぐらい前にも社会的イノベーションがありました。銀行という言葉が一切存在していなかった時代に、日本初の銀行である第一国立銀行というスタートアップが設立され、日本の新しい時代の発展のために必要なお金を社会の隅々に循環させようという役割が期待されました。そしてお金を社会に流通させるために大量の紙が必要となり、日本の大型の製造業の先駆けのようなイノベーションを起こした王子製紙が起業されます。またこの頃の日本は外貨を稼ぐ必要があったため、当時世界が日本に求めた主力製品の一つである繊維を取扱う大阪紡績(現・東洋紡)というスタートアップが立ち上がり、さらに日本初の保険会社である東京海上保険が立ち上がった時代です。

この4社の共通点は現在誰もが知っている大企業だということ、そして、日本に新しい時代を導くための様々な社会的イノベーションを促したスタートアップということです。また当時の商業は家業でしたが、この四社は複数が出資して作った株式会社であり、これも新しい時代のイノベーションでした。のちに東京証券取引所の前身が誕生し、商工会議所や東京女学館、社会福祉施設など多くの社会的事業が立ち上がったのもこの時代です。

渋沢栄一は1867年、幕府が派遣した視察団でパリ万博を訪れ、ポール・フルーリ・エラールから銀行や証券取引について学び、士魂商才の考えで、500社あまりの会社と600以上の社会的事業の設立に関与しました。合本主義という言葉を使っていた渋沢栄一は第一国立銀行を立ち上げる時に「銀行は大きな川のようなものだ。銀行に集まってこないお金は、溝に溜まっている水やぽたぽたと垂れている雫と変わらない。」という言葉をのこしています。お金は資源ですが、一滴ずつ垂れ流し状態では力はありません。ただ、一滴ずつが器の中に入り、やがて水位があがり、いずれ縁から零れ落ちる。すると細井流れが生じ、他の流れとどんどん合流していくと大きな川になる。大きな川になれば、原動力が生まれる。これが渋沢栄一がイメージした合本主義、資本主義の原点だと思います。ただ現在は資本主義では豊かな未来を描くことはできないとネガティブに反応する人たちが増えています。しかし栄一が合本主義を導入した理由は、ごく一部の人のメリットの為ではなく、一滴一滴の雫が大河になって社会の隅々にまで循環するのであれば、大勢の今日よりも良い明日を築くことができるという思いで導入しました。また、たった栄一が一人で500社の設立に関与ができたわけがなく、大勢の方が様々な形で協働して応援してくださりました。栄一も大勢に協力した。そう考えますと、金銭的な面だけではなく、一人ひとりの想いや行いという人的資本が寄り集まって大河として流れることによって新しい時代を切り開くことができることが合本主義なのだと思います。従業員や取引先、顧客、社会、様々なステークホルダーが力を合わせて役割を果たすことで価値が生まれると考えると、合本主義はステークホルダーキャピタリズムと言えるのではないかと思います。

わたしは渋沢栄一の孫の孫として生を受けましたが、意識して育ったわけではありません。しかし自分が40歳になった時、「言葉の財産」を残してくれたのだという気付きがありました。もっといい国になれるじゃないか、もっといい経営者、市民になれるじゃないか。渋沢栄一が遺した言葉を読み返すと怒りが表れていますが、現状に満足していない未来志向がそこにはあったのではないかと思います。

「論語と算盤」は、道徳と経済が合致すべきという考え方が一般的ですが、わたしは、エッセンスはたった一言で表現することができると思っています。それは「と(and)の力」です。一方、「か(or)の力」は白か黒か、勝ちか負けか、これを選別して進める力ですので、組織運営には不可欠であることは間違いありません。しかし「か」は既に存在しているものを見比べて進めているだけであり、新しいイノベーションやクリエーション(創造)は生じていません。そもそもなぜイノベーションやクリエーションが必要なのでしょうか。なぜなら環境は常に変化していくからです。時代が常に変化する中、企業は事業を適応させることによって継続できているのです。イノベーションやクリエーションのヒントは「と」の力です。論語と算盤を例に見てもわかるように、一見「と」は矛盾にしているように見えますが、栄一が言っていることは、論語と算盤を両立させましょうということです。矛盾していて無理だと思ったとしても、諦めることなく忍耐強く試行錯誤を繰り返うちに、フィット感が無かった関係性がある時ある瞬間に、ある条件が整ったらフィットすることになるかもしれない。それが新しいクリエーションが生じる瞬間なのではないかと思います。

「と」の力に関して、日本人の感性はかなり豊かなのではないかと思います。日本人は食に関して、「と」の力の感性をフルに活かしてB級グルメから超一流の高級料理まで、色々なジャンルで美味しい食事を楽しむことができています。しかし感性に恵まれながらも使っていない部分があり、壁や規制が立ちはだかると委縮してしまう傾向が長く続いています。壁を取っ払えということではなく、目の前のことだけをやっていると壁の向こう側の景色への意識さえ失せてしまって、「と」の力をフルに活かせていないのかもしれないという気付きが必要なのではないでしょうか。

「と」の力は、一見関係なさそうなものを組み合わせて新しい力を作るキーワードになりますが、実はもう一つの側面があります。2030年までに誰一人取り残さないという壮大な目標を掲げているSDGsです。その壮大な目標の達成にはもちろんお金が必要ですが、またもう一つの要件がなければ不可能だと思っています。それは想像力です。想像力はこの地球上で人類しか持っていない特別な才能です。わたしたちは当然自分達の家族に所属し、さらに会社や地域、国、地球など色々なところに所属ができています。つまり存在しているのは今ここしかないけれど、頭の中ではいつでもどこでも、過去にも未来にも行ける、つまり飛躍が出来るのです。人間は古代から飛躍し、実現へと繋ぎ、その連鎖によって文化文明を築くことができました。飛躍して現実と繋げるということは、人間にしかできない人間力なのです。ここで渋沢栄一のメッセージは何かを考えてみると、関係なさそうなものを合わせて新しい価値を作る、飛躍して現実と繋げる、時代環境が変化しても人間力さえきちんと使えばその時代に適応することができ、イノベーションを起こすことができる。そういうメッセージを読み取ることができると思います。

昭和時代、先進国の大量消費を満たす大量生産で日本は大成功しました。そして平成が始まる頃にmade in Japanから、貴方の国でつくるmade by Japanへと合理的なモデルチェンジをしました。令和の時代にどのような成功体験を求めるべきかと考えた時に、これからの日本の新しい時代はmade with Japan、日本と共に豊かな生活、豊かな持続可能な社会を一緒に作ろうということだと思います。

日本の人口はこれから減ります。しかし直接的あるいは間接的に、世界の多くの国々や大勢の人々と価値を共につくれる可能性があります。もしこれからの時代に、多くの国々、大勢の人々が、日本と一緒に伴走をしてくれているからこそ今の自分たちの社会や生活があるという意識が広まる世の中であればどうでしょう。そこには十分新しい時代の繁栄をmade with Japanで築けるのではないかと思っています。そしてそれはロータリーの精神と重なっているのではないでしょうか。

卓話『JAXAで学んだこと』令和6年4月8日

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)監事 小林 洋子様

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)監事 小林 洋子様

6年前、JAXAの役員に応募した際、勉強のために買った宇宙手帳という本のはじめの数ページで、衝撃的な記述に出会いました。

「私たちの太陽は、無数にある星(恒星)のひとつであり、ありふれた星の中の一つに過ぎない。このような星がおよそ2000億個も集まってひとつの巨大な集団、銀河系を形成している。8つの惑星や無数の小惑星などを従えて、なんの変哲もない小さな星、太陽が銀河系の端っこで輝いているのである。」

わたしは三重県の伊勢出身で、式年遷宮など伊勢神宮の行事に参加をしています。主祭神は太陽の神様である天照大御神で、太陽に対して畏れを抱きながら育ってきたので、太陽が銀河系の端っこなのだということを改めて書かれると、ショックが大きかったのを覚えています。地球上の人口が現在80億人ですので、地球25個分の人口よりももっと多い星の中の1つ、これがわたしたちの太陽です。宇宙というのはあまりにも広く、銀河系に相当するものがさらに約1000億個以上あります。これを考えると、毎日色々辛いことや嫌なこともありますが、小さすぎてどうでもいいような気持になります。

日本初のロケットは、1955年に打ち上げられた23cmのペンシル・ロケットです。そのイメージが強かったためJAXAに入る前は日本のロケットは小さいものだと思っていましたが、そうではありませんでした。主力ロケットのH2Aは53m、H2Bは56.6m、H3は64m、ですから、いずれもスペースシャトルの37.2m~56.1mよりも大きいです。

ロケットは、打ち上がったら成功したと思いがちですが実はそうではありません。一段エンジンに点火して打ち上げられ、その後肉眼で見えなくなってから二段エンジンに2回点火して誘導制御し、目的の軌道に到達すると衛星などが軌道に投入される、地上には電気信号が入りますから、その瞬間に打ち上げが成功したと皆喜ぶのです。

ロケットの上部にある白い部分「フェアリング」の中には、小惑星の石を取ってきたはやぶさや、宇宙から気候変動や災害などを監視するだいち(ALOS)、国際宇宙ステーションの補給機などが積まれています。このことから、ものを運ぶ手段と言う意味のヴィークルと呼ぶ人たちもいます。

燃料は液体燃料と固形燃料があり、それぞれ特徴があります。固形は扱いが楽ですぐに打ち上げられるという利点がありますが液体のように大きな推力が得られるものではありません。

昨年度はH3試験機などロケットの打ち上げが2回失敗したので、JAXAはしょっちゅう失敗しているのではないかと思われている方もいると思いますが、H-ⅡAという今もまだ現役の主力ロケットは48回中47回成功、H-ⅡBは9回中9回成功しており、世界的に見ても成功率はかなりいい線をいっていると思います。しかしロケットは大変高価なもので、1回の打ち上げに100億円かかります。それを半分の金額で済むようにするのがH3という新型ロケットで、今年の2月、ようやく打ち上げに成功しました。

ここからはJAXAの取り組みについてご紹介いたします。災害対策の観点から見てみると、例えば山口県では山口大学の協力を得て、JAXAが無料で提供している衛星データを利用して空から見た河川の氾濫状況を把握し、川が氾濫する前に県民へ周知して災害を防ぐという取り組みを行っています。

また安全保障という面では、JAXAというより国の取組みですが、宇宙は今や熾烈な覇権争いの場になっており、衛星から地上を監視するだけでなく、月面の水資源獲得競争も激しさを増しています。また、米露中印4ヶ国はミサイルを使った人工衛星の破壊を実施しており、そういった行為で破壊されたものは全て宇宙のゴミになってしまいます。宇宙はゴミだらけで、例えば小さなビス1個でも、弾丸の10倍の速さで飛んできますので、宇宙機だけでなく宇宙飛行士に当たったら大変なことになります。宇宙ゴミ「デブリ」は、とても大きな問題になっています。

JAXAは利益をあげる機関ではないので、研究成果で儲けるのではなく、希望される企業への技術協力や情報提供を行っています。例えば超音速の航空機が音速を越えて飛行するときに発生する大音響(ソニックブーム)を大幅に低減する機体設計技術は世界をリードするものですが、民間企業に提供されて各社のサービスの改善につながっていきます。

それから最近の話題ですが、2018年から、13年ぶりの宇宙飛行士の募集を行いました。現役の宇宙飛行士は現在6名いますが、この度新しく飛行士になるための訓練生として、歴代最年長46歳の男性と、最年少28歳の女性が選ばれました。2025年以降に実施される人類を再び月に着陸させるアルテミス計画では「日本人2名」が既に合意されていますから、どの飛行士が行けるか分かりませんが、とても楽しみです。

また、今年1月には2つの小型ロボットを搭載した小型月着陸実証機SLIMの、狙った場所にピンポイントで着陸するというミッションが大成功し、NASAやESAからもお祝いのメッセージが瞬速で届いただけではなく、ABCもBBCも人類の快挙だと絶賛報道でした。着陸することが第一目的でしたが、8cmの超小型ロボットSORA-Qが撮影した写真や月のデータはもう一つの跳躍型ロボット経由でどんどん地上に送信されました。SLIMは本来6日間の命と言われていましたが、1月の着陸からすでに3ヶ月近くになる今でも、月の昼夜寒暖差280度を何度も乗り越えて、まだ生きています。

別の話ですが、居住区の快適性は、日本が得意な分野です。人間だけでなく実験のために国際宇宙ステーションに連れて行くねずみにとっても、日本の居住箱に入れたねずみは極めて快適に生活をするので、健康な状態での実験ができます。アルテミス計画での月面探査に向けた中継基地として構築される「ゲートウェイ」という新しい宇宙ステーションの人間用居住施設の設計にも日本の技術が生かされています。

30年前からわたしの憧れであった初の女性日本人宇宙飛行士向井千秋さんは、宇宙から地球に戻ってくる時の感想を「重力」と答えました。地球の中心に向かって全力で引っ張ってもらっている愛を感じると、重力があるおかげで私たちは骨が劣化することなく健康に生きていけるのだと。わたしもそれ以来、重い鞄を持ち歩く時には、重くていやだなではなく、地球の愛を力いっぱい感じられるようになりました。

NASA、ESA、JAXAの予算を比べてみると、JAXAはNASAの十数分の一以下と圧倒的に少なく、昨年の打ち上げ失敗も、予算不足が原因のひとつであるという外部の方々の意見も耳にしました。民間企業の皆さんが宇宙ビジネスに乗り出してくださることが唯一の解であると思いますし、現に企業の皆さんとの共創プロジェクトも進んでいます。これらが一刻も早く米国並みに発展して安定したビジネスになってほしいと思います。

宇宙ビジネスはこれから加速していきます。迷っている企業様がいらっしゃいましたら是非背中を押していただき、ご協力をいただけると有難いと思っています。

本日はご清聴ありがとうございました。



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