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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2023年8月

卓話『United States Litigation: What To Know About US Litigation and the Approach of Japanese Companies』令和5年8月7日

クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所 マネージング・パートナー 東京オフィス代表 ライアン・ゴールドステイン様

クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所 マネージング・パートナー 東京オフィス代表 ライアン・ゴールドステイン様

1989年、当時の日本はバブル景気の真っ只中で、NYのタイムズスクウェアには日本企業のサインが数多く掲げられていました。私は日本というアジアの国の隆盛に興味を持ちましたが、私の通っていた公立高校では日本はおろか、アジアについて学習することはありませんでした。そこで、私はダートマス大学に進学し、日本をはじめとしたアジアの歴史を専攻し、文部省(※当時。現在の文部科学省)から奨学金をいただいて早稲田大学で勉強させていただきました。

その後、私はハーバード・ロースクールを経て、勝訴率89%、「対峙したくない四大法律事務所」に選出された、世界に33の拠点を置くクイン・エマニュエル法律事務所へ所属。トライアルローヤー(訴訟を専門とする弁護士)となりました。トライアルローヤーとは、皆さんが映画でご覧になるような陪審員の前で舌戦を繰り広げる弁護士です。ちなみに、アメリカの訴訟はあのような訴訟となる前に、ほとんどが和解などにより解決します。

私は東京オフィス(外国法事務弁護士事務所)の代表として日本企業の代理を務め、訴訟や国際仲裁に従事しています。入所以来、25年余り、日本企業とともに頑張らせていただいている経験を踏まえて、アメリカの訴訟のいくつかの特徴と日本企業の留意点等をお話いたします。

まず、日本企業がアメリカの訴訟で嫌がるのは陪審員の存在です。

ご存じの通り、日本にも裁判員制度はあるものの、「訴訟に詳しくない人」の判断に対する不安があるのか、裁判官による判示を欲する人が多いように思います。これはアメリカと大きく違う認識かもしれません。というのは、例えば、これまで約1000回の刑事訴訟を担当した裁判官がいたとします。999人が有罪で、その中には罪を認めている人もいれば、「絶対に無実」と訴えても、有罪になっている人もたくさんいます。そして、次はあなたの裁判ですが、999人を有罪にしてきたその裁判官であれば、「次も有罪だろう」と考えるのが自然ではないでしょうか。

一方で、陪審員は、その裁判は一生に一度の経験かもしれませんし、数回かもしれませんが、数少ない経験をもとに判断します。どちらのほうが公平に、客観的に聞いてくれるでしょうか。有罪か無罪かを陪審のみで判断することに重大な責任を感じている陪審員に聞いてもらいたいというのがアメリカの考え方です。

ちなみに、日本の裁判員制度は裁判官3人と裁判員6人で構成され、全過程に一緒に関わるため、裁判員は意見することが難しくなっているのではないでしょうか。

さて、アメリカのドラマ等では、訴えられるとすぐ裁判が行われているように見えますが、実際はあり得ません。アメリカの訴訟は平均すると3年ぐらいかかります。最初の手続きが2ヶ月、最後の裁判で2ヶ月、間の2年半は証拠開示をしています。これは、お互いにどういう証人や証拠、証言があるのかを全て提出しなければならないというアメリカの独特なシステムです。トランプに例えると、互いの札をすべて見せてからゲームをしましょうということです。

それはなぜか。イギリスから独立した時、どんな証人が来て、何を言われるか分からないまま裁判をしなければならないというイギリスのシステムに対して批判がたくさんありました。それはアンフェアだから、最初から全て提出しましょう、情報を交換しましょうという現在のシステムができたのです。

私が弁護士になる以前のタイプライターの時代と違い、現在は電子データや電子メールなどを全て提出しなければいけないので、かつてと比較して提出量は20倍30倍となりました。そのため、証拠開示には平均3年間という期間の中で最も時間がかかります。

Apple対Samsungの特許訴訟において、Samsungの代理として担当した時、Appleは年に1回新しいモデルを発表していましたが、Samsungは毎年30ほどのビジネスモデルがあったために証拠開示だけで大きな費用がかかりました。

証拠を全て提出しなければならないという義務を遂行することが非常に大変でした。企業同士の訴訟では、「証拠開示による負担はお互いに大変である」等の「お互い様」や「痛み分け」等という共通認識を持てれば、提出する証拠を減らすことができるのですが、交渉が決裂すれば、全て自分の負担で証拠を提出しなければなりません。また、その負担の大きさをあえて攻めてくる場合もたくさんあります。

このシステムの弱いところは、当事者にとって、その訴訟にメリットがあるのかわからない段階で、証拠開示の負担の大きさに怯んでしまい、和解してしまうことです。2億3億円かけて戦うのか、1億円で早めに和解するのかという合理的な決断は、フェアな判断とは違います。合理的な判断に基づいて和解した訴訟でも、そのまま訴訟を進めていれば勝訴した可能性もあるのです。アメリカの訴訟では証拠開示によって事実が明らかとなり、自らが保有する特許の価値等もわかるのです。

ちなみに、証拠開示は日本法にはありませんので、訴訟となっても相手の情報を得ることができません。日本企業は素晴らしい特許権をいくつも保有していますから、アメリカの訴訟を上手く活用してその強みを生かすことができたらいいと思います。

そして、デポジションとは、証人が裁判所以外の場所で、記録を取られながら証言するという手続きです。この記録は訴訟で使用します。証人は、訴訟で対峙する相手方の弁護士から様々な質問を長時間にわたって受け、発言の全てが記録されるため言い逃れはできません。

クリントン大統領のデポジションの時もモニカ・ルインスキーに対することを全て聞かれました。またビル・ゲイツのデポジションも有名です。証人が長時間尋問されるという大変な手続きであるデポジションでは発言だけではなく、証人の態度まで見られます。

また、裁判で、証人がデポジションで話したことと違う証言をすると信頼を損ないます。このため、相手方がこのような事態に陥れば、自分たちの勝訴につながることもあるのです。

ちなみに、アメリカの訴訟プロセスであるデポジションを、日本国内で行う場合はアメリカの大使館でしかできません。

ここまでお話した通り、アメリカのシステムの大きな特徴は証拠開示と陪審員裁判です。陪審員は一般常識に基づいて判断をしてくれるでしょう。そして、その裏では法律の専門家である弁護士たちが証拠開示などの大変な作業をしています。これらは日本とは異なるシステムですが、これより全てが公になり、正しい判断をもたらす材料が揃えられていることを理解していただけたらと思います。

ご清聴ありがとうございました。



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