「楽しく一緒に気分よく」

国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2023年4月

卓話『都市から環境をデザインする価値とは』令和5年4月24日

NPO銀座ミツバチプロジェクト 副理事長 田中 淳夫様

NPO銀座ミツバチプロジェクト 副理事長 田中 淳夫様

NPO銀座ミツバチプロジェクトでは、昨年5ヶ所で2.2トンのはちみつが採れました。国内生産量は2800トンですので、0.08%の天然のはちみつが採れたことになります。

銀座の町の周りにはたくさんの蜜源があります。木は昆虫や鳥に対するコミュニケーションの花を咲かせますが、木々は人間が勝手に植えたもので、花は人間のために咲いているのではなく、ポリネーターを待っています。ですから花を咲かせて蜜を出しても、ポリネーターが来なければ夕べには蜜を吸ってしまいます。今回みつばちが飛んだことでどんどん蜜を出して受粉して実をつけて、鳥が遠くへ運ぶという命の繋がりが見えてきました。

わたしたちは環境から循環するものということを考え、文明堂さんやあけぼのさん、アルビオンさんと協力をして商品を誕生させてきました。またコロナ禍で中断されてしまいましたが、それまで多い時には年間800人の幼稚園や保育園の子どもたちに命の繋がりの環境教育をしてきました。来週もアメリカンスクールで100人を超える子どもたちにお話をしますし、先日もフランス人のお子さんたちに環境教育をさせていただきました。

わたしたちはただ単に蜜を採るだけではなく、銀座の建物の屋上緑化を行っています。コストはかかりますが障害のある方にメンテナンスをお願いし、大分のカボス、徳島のすだち、福島の菜の花、福井の水仙、長野のりんごなど、様々なものを栽培しています。農作業には銀座のクラブのママさんたちに着物姿での作業をお願いし、たくさんのメディアが来てくれることで屋上緑化にプロモーション費が入っています。そのようにして地域の皆さんと色々な商品を作ってきました。助成金もありますが、ずっといただける訳ではありませんので、循環型の仕組みをどう作るかを考えています。

ミツバチは大変だけど芋であればみんなができるのではないかということで、銀座芋人という焼酎を作るプロジェクトも行っています。熊谷組さん、松屋さん、三越さん、時事通信さん、また法政大学、立教大学、大正大学、千葉商科大学、明治学院大学などの学生と協力し、現在は札幌芋人、名古屋の長者町芋人、宝塚芋人、下関芋人が誕生しています。数年前からオンラインで定期的に情報共有をし、全国に仲間が広がっています。

2010年日韓会議の際にわたしもお邪魔させていただき、ソウルでも14ヶ所でプロジェクトが広がっています。また、環境に負荷をかけるところでの都市養蜂ということで、現在ドイツをはじめ多くの空港で養蜂が行われています。犯罪者の更生のためや、障害がある方々のためにということでプロジェクトが広がり、アメリカのシカゴ・オヘア空港やカナダでも行われています。わたしたちもANAさんに相談し、現在、萩・石見空港の滑走路際に50箱ほど巣箱を置き、年間1トンのはちみつを採っています。空港にある「人も飛ぶ、ハチも飛ぶ」というメッセージがインスパイアされたのか、ANAさんが飛んでいる地方空港からたくさんの相談があり、福島空港では来年に向けて話が進んでいます。

ミツバチプロジェクトは高校生や大学生にも広がっています。愛知商業高校では校舎の屋上で都市型養蜂をし、東北のリンゴを使ったはちみつアイスクリームを作り、売り上げの一部を子ども未来基金に寄付しています。また広島平和大通りでは広島平和ミツバチプロジェクトを立ち上げ、授業で養蜂に取り組んでいる世羅高校の生徒が参加をしており、そのうち1人は養蜂家になると宣言をしています。数年間コロナで人と会うことが難しかった学生がミツバチと接することによって成長する姿を見てきました。地域の皆さんがミツバチを飼うだけではなく、頑張っている学生に協力をすることで、新しいブランド価値を生み出すことにも繋がるのだと思います。

福島とは震災の前からご縁があったのですが、震災時には全国の仲間から届いた支援物資を現地へ運びました。銀座の学生と福島の学生の交流もはじまり、ただ単に花を植えるだけではなく、そこからどんどん繋がっていくのです。

戊辰戦争150年、「福島×銀座×山口 酒造りプロジェクト」では、新しい価値をみんなで作ろうという試みで、純米吟醸「精一杯」を作りました。さらに、福島で土地を借りるという話から、耕作放棄地を買い取り、福島市で初めてのソーラー発電所を作りました。ここで発電された電気が銀座で高く買ってもらえます。そしてソーラー発電所の下では蕎麦を栽培し、地元のやない製麺で2割が蕎麦の蕎麦パスタを作り販売をしています。売れ行きがよく、耕作放棄地はたくさんあるのだからどんどん蕎麦を作ろうと皆さんが元気になりました。このような仕組みができるのであればと、銀行さんも興味を持っていただいており、また現地を調べて見つかった10ヶ所以上の耕作放棄地のいくつかは、千葉商科大学が買い、農作業は大学生を送ると言っていただきました。すると土湯温泉の観光協会は学生が泊まる場所を用意しましょう、地元のスーパーのいちいさんも農産物を買いますよと言ってくださっています。

どうでしょうか。誰も見向きもしなかった耕作放棄地に突然人が集まり始め、学生と一緒にやることで、単に電気や農業だけではなく若い世代が新しい価値を創造できるマッチングの場になるのではないかと考えています。現在わたしたちは福島市と包括連携協定を結ばせていただいています。

2019年にお亡くなりになった中村哲先生は、アフガニスタンの漠々とした大地でも水さえあれば人は生きていけるということで、クナール川から手作業で水を引き、植物を植え、ぺシャワール会で養蜂を行っていました。今後ペシャワールの農業指導員に指導をしてほしいというお話もいただいています。ソーラーシェアリングをしたら、エネルギー、食糧、教育が揃い、戦争は起こらないのではないかと考えています。

わたしたちのプロジェクトはたくさんの可能性を秘めています。これからも強かに頑張り広めていけたらと考えています。ご清聴ありがとうございました。

卓話『知られざるリトアニアの魅力』令和5年4月17日

駐日リトアニア共和国特命全権大使 オーレリウス・ジーカス様

駐日リトアニア共和国特命全権大使 オーレリウス・ジーカス様

リトアニアは北欧にある国で、バルト三国の一番南に位置し、面積は日本の北海道に相当します。人口は270万人ほどで、日本と比較すると人口密度は非常に低い国です。バルト三国はそれぞれエストニア語、ラトビア語、リトアニア語を使用しているため、三国で話をする時は英語を使用します。通貨はユーロです。

リトアニアはバルト海に面しており、昔から海はリトアニアの文化に大きな影響を与えてきました。バルト海近くの砂丘はユネスコによって世界遺産に登録されています。また琥珀がとても有名で、リトアニアは琥珀の国として知られています。さらに森の国としても知られており、面積の1/3が森林で、リトアニア人はよく森に行き色々な活動をしています。また平地の国であるリトアニアの一番高いところは300mで、日本とは全く比較になりません。昔の歌などに山というワードは出てくるものの、リトアニア人が想像する山は丘です。しかし緑が多く、自然が綺麗です。気球を使って自然を楽しむ習慣があり、人口に対しての気球の数が世界1位です。

リトアニアは東ヨーロッパの国ですので、ポーランドやウクライナなどの国と食文化の共通点が多くあります。主食はライ麦から作られている黒パンで、飛行船の形をしているツェペリナイや、ヨーグルトから出来ているピンクスープが有名です。リトアニアの食品自給率は200%で、よく輸出を行っています。最近では日本にもリトアニアの食文化が少しずつ入ってきており、サイゼリアではリトアニアのエスカルゴを食べることができますし、マヨネーズにもリトアニアの卵が使用されています。

日本は島国で、占領をされたという経験はあまりないと思いますが、リトアニアは色々な国に占領されたという歴史があります。700 年前にできたリトアニア大公国はとても歴史のある国で、現在の15倍の面積があり、当時はヨーロッパ最大の国でした。リトアニア、ベラルーシ、ウクライナ、ポーランドの一部、ロシアの一部を占めていました。ですからウクライナ戦争は非常に身近に感じています。リトアニア大公国時代からの綺麗な場所が現在でも残っており、現存しているトラカイ城はリトアニア大公国の中心的な場所であり、大変重要な位置にありました。当時2番目であったヴィリニュスという町は現在のリトアニアの首都で、西ヨーロッパから文化が流れてきたことで現在も西ヨーロッパの景観が残っています。また旧市街はユネスコによって世界遺産に登録されています。

大公国は残念ながら200年程前にロシア帝国に占領され、リトアニア語の使用が禁止されてしまいました。しかしリトアニア人は自分たちの言葉を一生懸命守り、自分の国を再現するという意識も絶えませんでした。強い意識で1918年に独立を果たし、2番目のリトアニア共和国が誕生しました。独立後の1922年には日本との国交関係が樹立しましたが、1944年にはソ連によって占領されてしまったのです。戦間期のリトアニアの一番重要な都市になったのは、当時の首都であったカウナスという町です。杉原千畝さんは東洋のシンドラーとも呼ばれる外交官で、彼は第二次世界大戦中、日本領事館領事代理として赴任していたカウナスで、ナチス・ドイツによって迫害されていた多くのユダヤ人にビザを発給し、彼らの亡命を手助けしたことで知られています。救われたユダヤ人はカウナスからシベリア鉄道で日本の敦賀まで辿り着き、オーストラリアやカナダ、アメリカ、南アフリカなどで新しい母国を見つけました。現在のカウナス旧領事館は博物館になっています。

3番目のリトアニアが誕生したのは30年前です。ソ連でペレストロイカが起きた時にリトアニアで独立運動が行われました。これは歌う革命と呼ばれ、ラトビアやエストニアでも同じ運動が生まれ、バルト三国が歌いながら革命を起こしたのです。また独立運動の一環として行われた、三国が手を繋いで人間の鎖を作ったバルトの道も有名です。

1990年3月11日、ソ連の中では最初の国として独立を宣言しました。ただしその翌年には独立運動が高まるリトアニアにソ連軍が侵攻し、リトアニアの民間人が死傷した血の日曜日という事件がありました。結局本当の独立は1991年の秋です。

ソ連時代は独裁主義でしたが、独立後30年間で民主主義が発展しました。リトアニアは日本と同じように国際社会が作ったルールを守る国ですので、難しい時期には手を組まなければならないということは事実としてあると思います。またロシアへの反対が非常に強く、ロシアは信用できないということをリトアニアのメッセージとして国際社会の中で言い続けてきました。去年まではEUの国々はリトアニアの考え方を信頼していませんでしたが、ロシアとウクライナが戦争になってからは、リトアニアのメッセージは正しかったという声も増えてきました。そして対中国政策も同じで、リトアニアは台湾との関係を強化してきたので中国との関係は悪化しましたが、それもリトアニアの明確なメッセージなのです。

経済においてもリトアニアはバルト三国の中では最大の経済国で、90%の公共サービスがデジタル化されているということを自慢としています。リトアニア人は少なくとも外国語が1つ以上できることを規則とし、デジタルスキルでは世界第5位となっています。小さな国ですから全てが上手くいくというわけではなく、得意な部分を強めるという戦略で、ライフサイエンスや金融とITを融合したフィンテック、サイバーセキュリティなどの分野に力を入れています。またエンジニアリングの分野でもリトアニアのレーザーは世界的に有名で、日本の多くの病院や研究センターではリトアニアの化学レーザーが使用されています。

2007年に当時の天皇皇后両陛下がリトアニアを訪問されました。また2022年10月にはリトアニアの首相が日本を訪問し、両国で価値を分かち合い、交流を強くしようという戦略的パートナーシップを発表しました。リトアニアには日本とリトアニアの交流がますます進んでいるのは間違いありません。

リトアニア語で Labai ačiū ありがとうございました。

卓話『将来の人材像:インターナショナルスクールブームから考える』令和5年4月10日

ジャーナリスト、G&Gインターナショナルスクール顧問 酒井 綱一郎様

ジャーナリスト、G&Gインターナショナルスクール顧問 酒井 綱一郎様

今、日本はインターナショナルスクール(以下、インターと略します)ブームです。最近の報道から拾ってみます。

CEAグループは、国際的なスノーリゾート・ニセコに隣接する北海道・共和町にインター校を設立すると発表。

東京・港区の『麻布台ヒルズ』に渋谷教育学園の「ブリティッシュ・スクール・イン東京(BST)」の幼児・初等教育科キャンパスが移転へ。

英国の名門パブリックスクールは、岩手県で開校した「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」に続き、「ラグビースクールジャパン」を千葉県柏市に開校へ。

英国の古参ボーディングスクール「マルバーン・カレッジ」は、小中高生が通う「マルバーン・カレッジ東京」を9月、東京・小平市に開校へ。

全国各地でインター開校ラッシュです。これは、地域活性化、地方創生の観点から自治体が誘致している面がありますが、日本の公教育と一線を画すインターへの期待が高まっているからでもあります。本日は、インターの現状と教育の内容から、将来必要とされる人材像について考えたいと思います。

日経出身で、主な仕事がテレビやラジオのコメンテーターをしている私がなぜインターについてお話を差し上げるのか。その理由は3つあります。

一つ目の理由は、企業のオーナーのお子さん、お孫さんらの進学、就職の相談に預かるからです。現在、いくつかの中堅中小企業オーナーのアドバイザー役を務めさせてもらっています。経営戦略や事業開発がメインの相談業務ですが、子弟の進学や就職のことも相談されます。昨年秋から今年に入って4名のご子弟を担当しました。

おひとりは、大学生でした。大学を出た後の就職活動で、面接訓練を徹底してやりました。私は20数年以上、テレビ、ラジオに出演しているので、少しは話し方をお伝えできるのでしょう。大学生の方は、最初はロボットみたいなぎこちない答え方でしたが、潜在力がある学生さんで、みるみるうちに上手になりました。結果、就職人気ランキングトップ10に入る企業数社から内定をもらい、この4月から社会人としてスタートされています。

次のお二人は、今日の話題のインターの小学校へのお受験です。お子さんの指導ではなく、保護者へのアドバイスです。「なぜこの学校にお子さんを入れたいのか」を書く英文の書類についてご指導させていただたり、面接のポイントをお伝えしたりしました。記者出身ですので、わからないことがあると、ストレートにその学校の入試担当の先生にお電話しました。「親は英語を話せないとダメか」などです。どこの学校も非常にオープンで丁寧に答えてくださいました。英文願書については、私の英語力は心もとないレベルですので、英語ネイティブの妻に頼りました。結果、お二人のお子さんは第一志望のインターに合格しました。

とてもうれしいので申し上げると、現在、3戦3勝。WBC(ワールドベースボールクラシック)の日本野球チームと同じで負けはありません(笑)。

現在、4人目の指導を始めています。この方は医学生です。医学部の学生が病院に就職するにあたり、一般大学の就活生と同じような面接があることを私は知りませんでした。

「私の子どもの大学入試の面倒を見てくれないかしら」という方がおられたら、残念ですが、ペーパーテストだけはお子さん、お孫さんがしっかり勉強していただくしかありません。私は、国際基督教大学(ICU)の理事をしていて、少しばかりは大学入試のこともわかっているつもりですが、入学試験はどこの学校もしっかり勉強して学力を伸ばすのが王道です。

あと2つ、インターに関係している理由があります。一つは、インターを立ち上げた起業家の知り合いが多く、彼らの動機をよく知っていることです。3つ目の理由は、私の肩書に「GGインターナショナルスクール顧問」とあるように、実際にインターの経営に関わっているからです。

本日の結論ですが、なぜインターブームなのか。時代がコペルニクス的転換の時を迎えているからです。チャットGPTを代表する高度な人工知能(AI)時代になると、人間に求められる素養、人材像は大転換が起きます。また、日本の少子化はすぐには解決せず、縮小する日本市場には頼れない。海外に市場を再び求める時代になる。21世紀型グローバリズムの到来です。そんな変革の時代に従来型の教育ではリーダーは育成できません。

大前研一さんが経営している「株式会社ビジネス・ブレークスルー」という会社があります。ここは、ビジネス・ブレークスルー大学が有名ですが、実は未就学児から高校までのインターの学校としては最大手です。ブレークスルー社は東京都内にインター4校、合計10カ所のキャンパスを展開しています。

大前さんと二人三脚で経営をされている柴田巌社長さんにお話を伺う機会がありました。柴田さんが紹介してくれたのですが、大前研一さんは昔から「英語とITとファイナンスが、三種の神器である」と言ってきたそうです。確かにビジネスリーダーは、この3つが当たり前にできることがグローバルに活躍する条件でしょう。私は、この3つに、「プレゼン力」「知的探求力」を合わせて「五種の神器」と呼ばせていただきます。そして、ITは、デジタルだけではなく科学技術も含めたらいいと思います。

この五種の神器は、現在の公教育からは学べません。グローバルリーダーの育成は、公教育には頼れません。

慶應義塾大学教授でヤフージャパンやLINEを傘下に置くZホールディングスのシニアストラテジストを務める安宅和人さんが『シン・ニホン』という名著をお書きになっています。AI×データ時代における日本の再生と人材育成について書いた本です。

そこに次のように書かれています。「現在の初等教育は、漢字の書き取り、計算ドリルに相当量のリソースを投下している。しかし、これらは今やキカイがほぼすべてやるのが当たり前のことだ」。

次のようにも記述しています。「日本では軍事訓練かのように『気をつけ!』『前ならえ!』、そして制服と過度の校則の強制が日常的に行われている。日本の初等・中等教育は、意識するとしないとにかかわらず、総じて”マシン(機械)として子どもを育成している」。

「マシンを育成する日本の公教育」という意見に賛成するかしないかは別としても、AI時代、新グローバル時代を生き抜くリーダーを育てる教育を公教育に期待するのは無理ではないでしょうか。わが子をグローバルリーダーに育てたいのなら、インターで学ぶのが一つの答えです。インターブームは、そんな時代背景で起きていると見てはいかがでしょうか。

ちなみに、アメリカには優れた公立学校がたくさんあります。全米の優秀学校ランキングには私立学校に混じって公立学校がランクインしています。実は、これには日本とは異なるカラクリがあります。日本の場合、国と自治体の税金がほぼ平等に各公立学校に配られます。アメリカの場合は、主に固定資産税で公立学校の費用をまかなっています。私自身、アメリカに住んだときに実感しましたが、金持ちが住む地域は固定資産税が高く、不動産が高い。その分、学校に回る資金が豊富で、先生の給与が高いし、学校の設備は充実していました。

インターの目指す目標は何か。事例に入りましょう。グローバルリーダーシップ教育を目的に設立した学校があります。軽井沢に日本初の全寮制高校としてできた「インターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢」です。今は、「UWC ISAKジャパン」と名乗っています。ISAKでは世界80カ国から集まった200人ほどの学生が勉強していますが、日本人は3割程度、残りは外国人です。授業は英語で、進学先はイェール大学、ブラウン大学、ペンシルバニア大学などです。全学生の7割に経済状況に応じた給付型奨学金を支給してきたのが大きな特徴です。

創設者の小林りんさんは、外資系金融機関や国連児童基金(ユニセフ)などを経て2014年にISAKを設立しました。設立当時、なぜインターの高校を作ったのか、小林さんの思いを伺ったことがあります。答えはこうでした。

「32歳でユニセフの職員としてフィリピンに赴任しました。貧困層教育を担当したが、貧富の差を是正すために現場で頑張るだけでは問題は解決しない。貧困をなくすその国出身のリーダーの育成が大事だと感じました」と。

インターを設立する多くの起業家の共通した問題意識は、グローバルリーダーの育成です。

少し、私が経営に参画している「GGインターナショナルスクール」を事例にインターの教育の実際を見てください。ご興味があれば、ホームページを見てください(https://ggis.jp/)。

GGはどんな意味があるのか。Global Genius、世界的に傑出した人物を育てるという意味を込めました。クリスチャンスクールですので、God’s Gift、神様からいただいた才能という意味も込めています。

GGは品川区の武蔵小山、不動前、戸越銀座に学校があり、品川区や目黒区に住むファミリーが多いです。現在、1歳から小学校入学前の未就学児が学ぶインター部門と、小学生などのアフタースクール部門があり、学んでいる生徒数は200人ほどです。

特徴的なのは、通常8時から18時まで、延長すると20時まで預かる保育園型のインターです。一般的な未就学児のインターは幼稚園が多く、通常9時から14時ぐらいです。GGはお預かりしている間に、スイミングスクールで泳ぎ方を習ったり、道場で体を鍛えたりの習い事にも通えるオプションがあります。ですので、共稼ぎのパワーカップルのファミリーが多いです。

学費ですが、23区内にあるインターだと、授業料が20万円から30万円ぐらいが多いですが、GGは16万円ぐらいからです。「GGテック」(https://ggtech.jp/)というプログラミングを習うコース、さきほどご説明した習い事コースなどがあり、その選択によって大きく変わってきます。ただ、富裕層向けのインターは目指していません。現在、学校数を増やそうとしていますが、手ごろな場所がなく、かなりの数の申し込みをお断りしている状態で、申し訳なく思っています。

では、さきほどの「五種の神器」である「英語、科学技術、ファイナンス、プレゼン力、知的探求力」を日常の授業の中でどう身に着けているかです。

GGの入学説明会に来られる親御さんから尋ねられた質問の一つは「英語はできるようになりますか」でした。こうお答えしています。「英語を学ぶ学校ではありません。英語で学ぶ学校です。ほぼネイティブになります」と。最近は、「GGに行けば英語が話せるようになる」と親御さんの間で口コミが広がっているので、この質問はあまり出なくなりました。百聞は一見にしかずですので、生徒の英語を聞いてみてください。帰国子女でない生徒さんでも、アフタースクールに通って、ほぼネイティブに育っています。

探求力の育成については、とにかく体験、体感を大事にしています。科学技術の学びは、楽しく実験、そして実験です。砂糖の量が飲み物の重量にどのくらい影響するかをテストしたり、小麦粉、油、塩を混ぜて小麦粉製の粘土をつくります、体験学習ですから、世界の文化について学んだら、大使館を訪問しました。恐竜について学んだら博物館へ行き、化石に触れました。

日本の教育はこれまで、問題を解いて解答を得る教育でした。しかし、問題を解くのは機械、人工知能に任せればいいわけです。AI時代の人間は、自ら課題を見つけ出し、問題を設定して、解決策を導き出すことが大事です。

例えば、『桃太郎』を題材にしてみます。従来型の答えを出すやり方なら、「桃太郎はどんな動物を引き連れましたか?」と記憶力を試すテストになります。しかし、探求型学習となると、まず、子どもたちに「気になる点」を挙げてもらいます。「桃はどんな大きさ?」「桃といっしょに桃太郎も切られない?」「犬や猿やキジは、鬼に勝てる?」など、疑問が続出するでしょう。さあ、それらの疑問を解決するためには、どんな材料を集め、どんなふうに考えればいいのだろうか?となるわけです。

そのとき、科学(S)、技術(T)、工学(E)、数学(M)、そして教養の知識を駆使して、どう考えればいいかを総合的に探っていきます。これを「STEAM教育」と呼び、GGの教育理念にしています。実は、さきほどの桃太郎の題材は、経済産業省の「未来の教室 STEAMライブラリー」から拾ったもので、役所もSTEAM教育の普及に力を入れています。なお、STEAMのAは「Art」の略ですが、芸術という意味よりも広い「Liberal Arts」のことで、日本語だと「教養」と訳すのが適切です。

GGでは、プレゼンが日常活動になっています。ほかの生徒さんの前で話しり、実験をやってその結果を発表したり、年1回のスピーチコンテストで大きな会場の壇上に立つ経験を持つわけです。

GGの現場はいかがだったでしょうか。英語で学び、知的探求力で課題を設定し、科学技術を武器に考え、プレゼン力で相手を納得させる。これがGGで学べる素養です。ファイナンスについては、金銭管理を身に着けますが、本格的なファイナンスの勉強は小さいお子さんには無理なので、大学、大学院にお任せします。

最後に、インターの将来への課題について触れておきたいと思います。金融庁が2021年に「日本及び主要国におけるインターに関する調査」報告書を出しました。実質的には、ボストンコンサルティンググループに委託して調べた内容です。

なぜ金融庁がインターなのか。政府は「世界に開かれた国際金融センター」としての地位の確立を目指すことを閣議決定しています。金融に長けた高度外国人がたくさん日本に駐在してもらうことが必要になります。しかし、日本の教育水準は「並」レベルだというのが、世界のビジネスリーダーたちの共通認識です。以前、インドの優れたIT技術者を日本に招へいしたが、「子どもの教育に差し障る」という理由で断られた事例を日経ビジネスで紹介したことがあります。それは今も変わりはありません。

金融庁のレポートは、高度外国人材が期待通りの教育内容/水準の学校に子弟を通わせられていないという問題について3つの課題があると指摘します。
• インターについての情報が少なく、高度外国人材が自身のニーズに合った選び方ができない。
• そもそも、質・実績に優れたトップ校が少なく、混在型のインターに通うことになってしまう。
• 日本人子弟にも対応が必要である混在型のインターにおいて、教育水準が低い/合っていない。
高度の金融人材が望むのは、インターのトップ校ですが、数が少ないと指摘します。

どうしてトップ校が少ないと判断しているかと言えば、金融庁レポートは、欧米のトップクラスの大学にどれぐらい入学しているかの学校別の実績を出しています。それによれば、ハーバード大学やイェール大学、ケンブリッジ大学などに入学させている実績が高いインターは5校。ASIJ(アメリカンスクール・イン・ジャパン)、西町インターナショナルスクール、KIST(インターナショナルスクール東京)、セント・メリーズ・インターナショナルスクール、清泉インターナショナルスクールの5校です。

私が教えたお子さんはこの5校のどこかに合格しました。GGは小学校前までの教育ですので、小学校は親御さんが自分たちで探す必要がありますが、ほぼこの5校プラス慶応の初等部の試験を受けられるお子さんが多く、ほぼ合格しています。GGでは、アフタースクールが充実していますので、公立の小学校に通い、英語はアフタースクールで学び続けるお子さんも結構います。

話を戻すと、金融庁も質量ともにインターが少ない課題を民間にだけ押し付けてはいません。インターに対する政府の支援が少ないという制度・仕組み上の課題があると指摘しています。果たして政府の誰がその課題を解決するのか、推進役がいないのが現状です。

現在、地域起こし、地方創生的意味合いから地方を中心にインターの設立ラッシュになっていますが、世界のインターと伍していける教育水準を確保できるかが、今後の大きな課題になっています。

ご清聴をありがとうございました。

卓話『シェイクスピアと私』令和5年4月3日

パストガバナー、地区研修リーダー 服部 陽子様

パストガバナー、地区研修リーダー 服部 陽子様

ウィリアム・シェイクスピアはイングランドの劇作家で、詩人でもあり、世界の演劇を代表する人物と言ってもいいのではないかと思います。

シェイクスピアは生涯に37の作品を残しました。作品をジャンルで分けると、悲劇と喜劇に分かれます。有名なものでは四大悲劇と言われる「ハムレット」「オセロ」「リア王」「マクベス」がありますが、悲劇は主人公やその周辺の人たちが次々に死んでしまいます。一方で喜劇「夏の夜の夢」「ヴェニスの商人」「十二夜」などはハッピーエンドの作品です。またロマンス劇と呼ばれるジャンルもあり、ロマンスと言っても男性と女性の恋愛のようなロマンスではなく、離散してしまった家族や恋人が苦労をして最終的には結ばれて幸せになるというお話で、悲喜劇と呼ばれることもあります。また「ヘンリー六世」のような歴史劇、道徳的なジレンマや社会問題に関わる内容の問題劇などがあります。もちろんこれはシェイクスピアが考えたジャンル分けではなく、のちに演劇の評論家たちが分けたものです。

シェイクスピアの作品の中で題材として圧倒的に多いのは、王位継承を巡る争いです。しかしテーマとして描いているのは愛や憎しみ、欲であり、人間とは何かというテーマが全ての作品に渡っていると言えると思います。400年以上経ちますが、どの時代であっても人間は同じで、だからこそ何百年経っても世界中で読まれている作品なのだろうと思います。

シェイクスピアの登場人物はとにかくパワーやエネルギーがあり、凄まじい人間力で生き抜く人たちです。皆すごいエネルギーを持って一生懸命生きていますから、演じているとそのパワーがもらえるような感じがしています。また作品に描かれている世界は宮廷が多いのですが、それと相対するかのように森や海などの自然の世界が出てきます。宮廷の中で人間関係に傷ついたり疲れたりした登場人物が行く場所は決まって森で、そこで人間性の回復や、違った人生を歩むなど、対比される作品が多いです。そして職人や商人などの一般人の世界が王宮の世界と一緒に描かれています。こうしたバックグラウンドの違う人たちが作品の中で巧みに交流をして繋がりを持ち、ひとつの物語を織りなしていくところが非常に興味深く、今よく言われているダイバーシティと並び、個々の能力を発揮させるというインクルージョンの世界が具現されているのかなと感じています。多様な人々、違って見えても結局人間は皆同じなんだというシェイクスピアの声もまた聞こえてきそうな気がします。

わたしは学生時代に英語劇のクラブに入っており、クラブ活動として英語劇でシェイクスピアをやっていました。なんとなく身近に感じて楽しいなとは思っていましたが、卒業してからはシェイクスピアとは離れた生活でした。今から20年ほど前、シェイクスピアを専門にやっている劇団の公演を観に行き、社会人向けのクラスに誘われて半年ほど日曜日に通っているうちに、劇団の演出の先生から舞台に出てみないかというお話をいただき、活動をすることになりました。しかし劇団の人と一緒に練習するのは大変で、辞めようかなと思っていた時に劇団の看板である平澤さんという役者さんと出会い、社会人を対象にしたことをやりたいというお話を聞き、2011年に平澤シェイクスピア・アカデミーを開設しました。1年半くらいかけてひとつの作品を練習し、発表をするクラス、朗読を中心としているクラス、アフタヌーンティーをしながらシェイクスピアを読んで楽しむクラスなどがあります。2015年にグローブ座のハムレットの日本公演を観に行った際にハムレットを演じたラディ・エメルワさんと、ホレイショーを演じたマシュー・ローマンさんとお話をする機会をいただき、是非グローブ座でやったらいいじゃないかと言っていただきました。もちろん夢のまた夢ですが、二人との出会いで火がつき、もう少し本格的に取り組みたいと思うようになり、2016年にウィリアム・シェイクスピア・フェローズを立ち上げました。サントリーホールで第一回公演を行い、コロナ禍ではありましたが2021年にはサザンシアターでアントニーとクレオパトラの公演を行いました。ウィリアム・シェイクスピア・フェローズは、一部の人だけが楽しむのではなく、プロとアマが一緒に劇を作ることで広く一般の人が楽しめるようにしたいという思いから始まったもので、皆様から支えていただき、2022年に一般社団法人となりました。2024年の秋には「冬物語」という作品を予定しています。

わたしがシェイクスピアの劇を続けている理由は、日常とは違う別世界に入り込み、心身ともにリフレッシュができるからです。自分だけの時間が生活の中にあるということは、心にも体にもいいのではないかという気がします。またシェイクスピアのセリフには気付きがたくさんありますし、誰かひとりだけが一生懸命やっても、それは劇として面白いものにはならず、皆で力を合わせるということの楽しさが大きいかなと感じています。さらに、セリフの稽古のために体中から声を出すということが自分の健康にも繋がっているのかなという気がしています。そして実際に舞台に立った時、役の気持ちになって涙を流した時、一緒に舞台に立つ人が同じように受け止めてくれること、またオーディエンスの方も一緒に涙を流してくれている、その一体感や喜びは、他では感じることができないものだと思うのです。

アンディシュ・ハンセンというスウェーデンの精神科医が書いた「スマホ脳」というベストセラーには、人と実際に会う時、次に演劇鑑賞をする時に、他人の考えや気持ちを本能的に理解するミラーニューロンという神経細胞が活発になると書かれています。他者を重んじる、他者のために奉仕活動をしようというわたしたちロータリアンにとっては、演劇鑑賞は大変良いのではないでしょうか。

ロータリーのビジョン声明はご存知の通り、わたしたちロータリアンは、世界で、地域社会で、そして自分自身の中で持続可能な良い変化を生むために、人々が手を取り合って行動する世界を目指しています。大事な奉仕の7つの重点分野は生きていくうえで最低限必要なことで、世の中でSDGsと言われるよりもずっと前から、ロータリーはそれに気付き、行動をしてきました。究極の目的は世界平和の実現ですが、衣食住が満たされてすぐに世界平和になるのかというと、やはりそれだけでは難しいです。そこに人間の豊かな心があってはじめて世界平和が実現すると思います。人の命を大切に思う心、他人のことを自分のこと以上に大切に思えること、人の幸せを願えること、困難な状況でも勇敢な気持ちを持てること、あるいはいつも明るく楽しい気持ちでいられること。体に栄養を与えるのと同じように人の心にも栄養が必要で、それは絵画や音楽、文学かもしれませんが、そういうものが人の心を豊かにすることができるのではないかなという気がします。世の中はSDGsということが叫ばれていますし、侍ジャパンが優勝すればスポーツは素晴らしいと言われますが、その結びつきがもっともっと深く考えられてもいいのではないかと思いますし、ロータリーはそれができるところだと思っています。人を育てることができる、また芸術や文化に触れる機会を作ることもできる、実際に皆でやることもできる。それがロータリーの仕事なのではないかと考えています。

最後に、わたしの一番好きなシェイクスピアのセリフをご紹介します。「ヴェニスの商人」ポーシャのセリフで、わたしの人生を応援してくれているような気がします。

ほら、向こうに見える灯りは家の広間の蝋燭よ。あんな小さな灯がこんな遠くまで光を放つとは。きっとあのように、いい行為は悪い世の中を照らすのね。

ご清聴ありがとうございました。



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