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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2023年3月

卓話『長谷工コーポレーションの再生について』令和5年3月27日

株式会社 長谷工コーポレーション 取締役会長 辻 範明様

株式会社 長谷工コーポレーション 取締役会長 辻 範明様

長谷工コーポレーションは元々長谷川工務店という名前で1937年に創業しました。所謂一般的な建築会社としてスタートしたのですが、オリンピック後の不景気になると、それまでの一般工事だけでは無理だということで、新規事業としてマンション建設に乗り出し、昭和43年に第一号のマンションを芦屋でつくりました。それからマンションブームが到来し長谷工のマンションは当たり、工事が山のように来ましたが、自分のところだけで消化できず、他の会社に工事を投げたりしていました。昭和40年代後半もマンションブームだったのですが、当時はクレームも非常に多くありました。そこで構造を主体に考えた規格型のマンションを考案しました。マンションは工場生産ではなく現場での工事ですから、職人さんの技術によって出来具合が変わります。そうではなく品質が一定するように、腕の違いで差が出ないようなマンションづくりをやったのです。その結果昭和50年代の前半は規格型でコストが安く、工期が短く、アフタークレームが少ない長谷工のマンションは大ヒット商品になりました。ところが昭和50年代後半にどこに行っても同じ面積、同じ間取り、同じ仕様ということで飽きられて在庫の山をつくってしまいました。そこで規格型をやってきた経験を活かしながら、エリアや価格に応じたマンションをつくろうということで、1983年頃からいろいろな外観や仕様のマンションをつくりだしました。

1987年に3代目の社長が誕生しました。この方が長谷工はマンションだけの一本足打法という状況から脱却しようと、コンストラクションはスーパーゼネコンに負けないように、デベロッパーは大手デベロッパーに負けないように、エンジニアは大手の設計事務所に負けないようにしようと、それぞれを独立採算にしました。これについて私は素晴らしい発想だったと思うのですけれども、タイミング的に丁度バブルに入る寸前で、デベロッパーがもの凄い利益を上げたのです。売り上げも利益もデベロッパーが大きく、過剰に投資をし過ぎてしまい、1990年の前半から会社がおかしくなりました、1995年には赤字転落し、自主的に再建しようとしたものの、1999年に自主再建を諦めざるをえませんでした。その年の株主総会で役員体制を刷新し、私は取締役になり営業部隊の責任者として再建計画をスタートしました。

スタートした当初はなかなか上手くいかず会社としては資金繰りに非常に苦労していました。そんな中、2000年の前半にたまたまマンションブームがきました。状況を説明すると、関東圏で今の供給戸数は1年間で3万戸ぐらいですが、当時は8万戸から10万戸供給されていたのです。そういうブームの中で長谷工はマンション専業にやっていたので仕事量が急激に増え、順調に回復していきました。ところがリーマンショックが来ると付き合いをしているデベロッパーがほとんど潰れてしまいました。結果として工事代金の代わりに建物を代物弁済で取得しました。長谷工は建設がメインですけれども、マンションに関連した仕事は大体全部やっているので、自分がデベロッパーになって、自分で建てて、自分で販売して資金を回収する、これで2008年から2010年はなんとか乗り切ったのです。2011年に震災が起きましたが、その時も長谷工はデベロッパーに土地を持ち込み、工事をいただくことができました。それからは順調に回復して2014年にはなんとか借金を全部返しました。何故長谷工が生き残ったかというのは、やはり土地を探してデベロッパーにマンション用地として持ち込み、工事をいただくというビジネスモデルがあったからだと思います。長谷工は建設会社ですけれども、毎日東京で約200人が土地を探しているのです。

大手デベロッパーも2008年のリーマンショックを境に、段々長谷工の力を認めてくれるようになりました。土地を探す力というのはもちろんですが、長谷工はずっとマンションの施工をしています。今でも東京、大阪、名古屋で約2万戸を毎年竣工させているのです。大手デベロッパーが全国で販売しているのが約3千戸から4千戸ぐらいですので、長谷工は桁違いの数のマンションに携わっているのです。こうした施工実績を大手デベロッパーが少しずつ評価してくれるようになりました。

長谷工の人間は、頭で勝負するタイプではなく、どちらかと言うと、走りながら考えるようなタイプが多いと思います。数を沢山やれば、技術屋も自ずと勉強し、どこをどうするとアフターが発生する、ということが分かってきます。工事の下請けも、長い付き合いの協力会社が大勢います。協力会社が施工に手慣れてくると、ミスが少なくなくなるのです。世間でいろんな品質の事件が起きたときに、やはり長谷工が一番安全だなということで「長谷工をもう一度見直そう」と評価していただき、大手デベロッパーからの発注が一気に増えました。

マンションの場合は発注者の後ろに本当の購入者という戸数分のオーナーがいます。長谷工はマンションばかりやっていますから、CSの部隊を別に持っています。別部隊が施工した人間と違う目で見て、アフターを対応しているのです。施工した人間は出来るだけ隠そうとし、隠したことで同じミスを他の人間が繰り返す。施工した人間とは違う人間がアフター対応することで第三者的に判断するため、何が原因で起きたミスかがはっきりするのです。そうするとそれがフィードバックされて、設計も良くなり、施工も良くなるのです。大手デベロッパーとの関係が非常に良くなって、発注量が増えてくると少しずつ「やはり手慣れている長谷工は、大手がやるよりマンションだけは上手だよね」と言われるようになり、マンションの施工がどんどん増えていきました。そういう流れがあり、今の長谷工があります。

それと一番大事なのは、協力会社です。今も長谷工と協力会社との関係というのは、「建設」「設計」「技術開発」「協力会社」、四位一体だという話しをずっとしています。皆、協力会社の親父連中と非常に仲がいいのです。工事と言うのは順番に進んでいきます。前の施工と後の施工、施工の境目があります。ここも皆知っている者同士で仲がいいから、お互いに次の仕事をし易いように施工していく、そういう文化があるのです。それが逆に言えばアフターが少ない施工に繋がっていると思います。

最後になりますが、私はいつも運と縁という話しをしています。運というものはやはり万人に共通に廻ってきているのです。その運は掴めるか、掴めないかだと思うのです。やはり動かないと掴めないし、明るく生きていないと掴めません。それが運だと思います。

それと縁というのは、柳生家の家訓で「小才は縁に出会って、縁に気付かず。中才は縁に気付いて、縁を生かさず。大才は、袖すり会うた縁をも生かす。」その通りだという風に思います。長谷工は色んな方々のご支援で再生することが出来ました。そういう意味では、社会貢献となる事業にこれから少しずつ踏み出す時期に来ていると思います。是非、機会あれば今後ともご支援よろしくお願いいたします。

卓話『最新インバウンド事情とその課題』令和5年3月20日

株式会社ラグジュリーク 取締役社長兼CEO 眞野 ナオミ様

株式会社ラグジュリーク 取締役社長兼CEO 眞野 ナオミ様

株式会社ラグジェリークは、様々なインバウンドに向けてのサービスを提供しており、どちらかというとコンサルティング業に近いサービスで、観光業の点と点を線で繋ぎ面にしていくということを行っています。港区南麻布にオフィスを構え、京都に支店があります。小さな会社で社員は21名ですが、本年度は倍、3倍の成長を目指しています。関連会社にはラグジェリークトラベルという旅行会社があります。コロナ前、元総理の菅さんや安倍さんが観光立国日本を目指そうとしておりましたが、コロナ禍の3年間、正直観光業に対してのサポートはまるでゼロでした。飲食なども非常に苦しんだと思いますが、観光業も0.7%まで落ちました。その中で我々はなんとか生き残り、今現在に至っています。ではこれから明るい未来にしていくにはどうすれば良いのでしょうか。

インバウンドには個人の旅行者と法人の旅行者、大きく分けて2つあります。個人のお客様に対しては、それがプライベートジェットであろうとビジネスクラスであろうとバックパッカーであろうと、色々日本を体験していただくための手配をします。法人のお客様はMICEという言葉を使いますが、企業の中の予算で海外の人たちを日本に連れてくる際のお手伝いをさせていただいています。

MICEでも個人でも、まず必要なことはあご(食べるもの)あし(移動手段)まくら(宿泊)の手配です。しかしホテルに泊まるために旅行をするわけではないですし、飛行機に乗るために旅行をするわけではありません。現地に行って誰に会って何をするかということコンテンツが非常に重要になってきます。

B to Bは企業が企業に対してモノやサービスを提供するビジネスモデルのことを指します。日本にコーディネートをする人たちがいて、その下に宿泊や交通があり、その下にことコンテンツがあります。現在色々なところで地方創生と言われていますが、お客様から現地に繋がるまでの間でそれぞれ20%を取ってしまうと、結局現地に落ちるお金というのはきちんと確保されていません。これも観光の大きな課題です。ではどういった形で地元の人たちと組んでいけば良いのでしょうか。いわゆる修学旅行でろくろ回しをするというような体験ではなく、本当に地元にいる人にお金を払ってコンテンツを提供してもらうということを模索しながらプロデュースしています。また旅に纏わるものだけではなく、外国人というターゲットにラグジュアリーというコンテンツの提供も行っています。ラグジュアリーは日本語では豪華爛漫と解釈されることが多いですが、英語でいうラグジュアリーは、必要なものを必要な方に必要な時にきちんと提供するという意味で、例えば老人の方にとっては温かい温泉がラグジュアリーであり、痒い所に手が届くということが本物のラグジュアリーという解釈です。ラグジュアリー×日本のコンテンツということが全て我々の事業であり、現在コロナ禍で色々模索をしている中で、様々な形で事業が発展してきました。地方自治体と組んで地方のコトコンテンツや魅力を発信するお手伝いをさせていただき、どうしたら伝統工芸協会を外国人に分かりやすくプロモーションできるだろうかというコンサルティングもさせていただいています。またラグジェリークトラベルでは、最近課題になっているDX化に伴い、デジタル事業を立ち上げました。データを分析し、日本にいらっしゃる外国人に、コトコンテンツをふるさと納税という形で提供できないかということで、最終的に昨年9月に外国人向けのふるさと納税サイトを発表させていただきました。

2023年はインバウンドの復興元年です。インバウンドの旅行者は先ほど申し上げた通り、コロナの影響により0.7%まで落ちました。しかし2022年10月に国境が再開し、数字としては復活しています。これからさらに増える外国人に対しての大きな課題がオーバーツーリズムで、そうならないように日本の経済の効果にどう繋げていくのかがこれからの課題になってくると思います。

インバウンドはモノ作りを超えて日本最大の外貨獲得産業になります。官公庁は政策として2030年には15兆円市場と謳っています。2019年度の4.8兆円から3倍に成長させることは実現可能なのでしょうか。コロナ前の一人当たりの平均消費額は15万円でした。これを2030年には25万円にアップしなければいけません。円安が追い風になるのではないか、ビザを緩和すれば達成できるのでないか、などの楽観的な意見もありますが、しかしこれは日々なる努力がなければ成し遂げられないものだと思います。

官公庁は富裕層のインバウンドの実態をあまり捉えておらず、彼らの言う富裕層というのは100万円程度です。しかし我々が見るコアターゲットは500万円以上、マジョリティが800万円1000万円のお客様であり、重要なことは、日本に来て具体的にどんなことにお金をしっかり落としたいかということです。例えば相撲が好きであれば、5000円で朝稽古を見に行くこともできます。4万円払えば末席に座れます。しかしそうではなく、朝稽古で親方の話を聞き、一緒にちゃんこ鍋を食べて、息子を土俵に上がらせたい。肌で感じさせたい。それに30万50万100万払ってもいい、そのぐらいディープな体験をしたいというのが我々のお客様です。また、今輪島塗の20万円のお盆を買う人は日本人でもなかなかいません。インバウンドでも20万円のお盆は必要ないかもしれない。しかし人間国宝の体験に100万円払ってもいいと言います。このような形で地方創生に繋げることができるのです。これでいいじゃないかという妥協ではなく、お客様の要望をきちんと聞いて個々でプロデュースし、地方創生に繋げていくことが非常に重要だと考えています。

インバウンド、ラグジェリークトラベル、これからの課題は、まずは20万30万のディープな日本の体験を買っていただくために、お客様が本当に求めているもの、要望を理解することです。そしてインバウンドコンテンツをさらに拡充し、様々なコトコンテンツをお客様に届けるためのマーケティングの向上が必要です。加えて現地の人材の教育も大切で、こういったことを相対的に整理して、官公庁や自治体、工芸品協会などと模索をしながら作り上げている途中です。

これからのインバウンドを成功させるためには色々なキーワードがあります。その方のための「テーラーメイド」、「フレキシブル」な対応、また文化の「ストーリー化」、ポストコロナにおいての「ウェルネス」、「デスティネーション」。日本全国をどんどん観光立国にしていくコンテンツはあります。それらどのように磨き上げてマーケティングができるかがこれからの大きな課題であると思います。

日本のインバウンドを成功に導くために一番大切なことは、経済的にサスティナブルな観光地を目指すことです。薄利多売を目指すのではなく、一人ひとりが求めているコンテンツを整理し、プレゼンテーションし、アップセルをしてきちんと対価をいただくことです。日本人はいいものをできるだけ安く提供するという癖があります。それはすごく立派なことです。しかし外国人はきちんとしたものにお金を払うことは躊躇しません。

インバウンド元年、パリやロンドンに負けない観光地を作っていくために我々は模索をしています。これからもよろしくお願いいたします。

ご清聴ありがとうございました。

卓話『なぜ気候変動に取組むのか、炭素中立商品とは?』令和5年3月13日

日本ゼルス株式会社 CEO 野島 健史様

日本ゼルス株式会社 CEO 野島 健史様

日本ゼルスは2021年に設立しました。しかしプロジェクト自体は数年前から行っています。イエール大学の学長であるノードハウス博士の1970年代の論文の中で、気候変動と経済の問題は中央集権的に解決することは難しく、対応できるところをばらばらに対応してくということが書かれていました。これは我々が加盟している日本気候リーダーズ・パートナーシップでCOP27のレポートを受けた中で正に言われていたことでした。我々が会社を立ち上げた時、目に見えないものを販売するということに大きな不安がありました。しかし今では色々なところでお話を聞いていただけるようになり、企業や製品の価値、取り組みに対する影響が拡がってきています。

なぜ今、気候変動の問題に対処しなければならないのでしょうか。二酸化炭素濃度は、300PPM以下に抑えなければ数十年経った後に影響が出てくると言われています。実際に数字で見てみると、産業革命の頃には280PPM程度であったものが、2021年には414PPMとなっており、まずは一人ひとりができることから始めていかなければならない問題だということが非常に大きく叫ばれています。我々のような小さなベンチャーも、投資家や企業様と一緒に知恵を絞っていかなければいけないという状況です。

現在人為的に排出されているCO2は年間で300億tを超えています。濃度が高くなると吸収する効率が上がるので全部が大気中に排出されるわけではありませんが、160億tは確実に大気中に放出され残留していると科学的に言われています。温暖化が進んだ時、経済だけではなく全く違う地球になっていくということが懸念されており、既にサンゴ礁や海中の生物への影響は報道されていますが、何より海面への影響が今後波及してくるだろうと言われています。報道などで1.5度目標とよく耳にするように、Science Based Targetsという国際認定でも世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力をするという目標が最初のステップとして設定することが一般的です。対策をすることで人類の価値を上げ、経済的に5400兆円ほどのポジティブな影響を与えると考えられており、一方で対策をしない場合には2京円を超える財産が失われると言われています。

今は義務教育の中で温暖化やSDGsを学んでいます。自分の会社は儲かっているけれど、地球環境には配慮できているだろうかとの思いから、継続的に長く働くことに抵抗感を持つ若者が増えてきています。EUやオーストラリアが環境や温暖化に対して先進国と言われていますが、政府や機関だけではなく、自分の会社が創業以来出してきた温暖化物質を後から吸収するプロジェクトに投資することで環境への影響を無くしていきたいと考えるリーダーも出現しています。実例として、1.5度を目標にするために年間4.2%ずつ削減していこう、0度を目標にするために2030年までに二酸化炭素を全く排出しない状態にするというゴールを目指して、今足元でどのくらい排出をしているのかという計測から、どのような手順で下げていくのかを企業として策定し、それをアピールすることで企業価値を高める取り組みを行っています。

現在会社や組織が目標を設定する足元の可視化というところで、Scope1・2・3という言葉がよく聞かれるようになりました。これは国際的な温室効果ガスの排出量の算定・報告の基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」の中で設けられている排出量の区分を指した言葉です。自社での排出や間接的な電気購入などはScope2、その他の大部分がScope3に該当します。

わたしたちの会社はカーボンニュートラルにするための相殺、相殺するための信用、信用されるためのシステム作りというところから始まっていまして、コロナの中でなかなか海外に行けなかったこともありますが、なにより日本の中でロールモデルを作りたいという思いがありました。日本のJクレジットも取り扱いますが、海外のものも取り扱っています。SDGsに適合してクレジットの費用で賄える事業の幅が非常に広く、経済的な合理性の中で回していくということに非常に近いことができるプロジェクトがあります。ミャンマーの植林プロジェクトを見てみると、CO2の吸収であるとともに、貧困や飢餓、海や森の生物、ジェンダーの問題などもクリアしています。また植物由来の他にも様々な取り組みで吸収する技術的なアプローチや、経済的に厳しい方々に豊かさをもたらすことができるようなプロジェクトもあります。

企業としてCO2がどれくらい出ているのか、対外的に投資家さんに向けて発信する取り組みも非常に進んでいます。特に東京証券取引所のプライム上場されている会社様ですと、T自分の会社がどれくらいCO2を出しているか、それが事業にどうインパクトを与えているのか、気温が上昇した時に事業を継続することができるのか、あるいは事業がコスト高にならないかということをTCFDレポートで開示しなければいけません。また環境にどれくらい影響があるのかというスコアリングであるCDPというものがあります。3月はちょうど期末になる会社が多く、TCFDとCDPの資料作成に追われる企業が多いことから、企業として環境を考える時代になってきているのだと感じています。

現在日本ゼルスでは、カーボンニュートラルや地球温暖化の対策、そして企業をどのようにしていくのか、あるいは製品をどのようにしていくのか、世界で見た時にどうなのか、日本の政策がどうなっていくのか、そのようなことを知った上で様々な会社様とお話をさせていただいています。もちろん会社の規模や業種は一社一社違います。しかし2050年にはすべての会社がカーボンニュートラルになりますので、その時に向けてどのようなアプローチをしていくべきなのかを知らなければならず、インフォメーションのサービスも行っています。

可視化というのは目標設定と同じところで作業として出てきますが、どれぐらいGHGを出しているのかはScope123で算出する方法と、最近ではドイツにあるエコトランジットという物流会社の日本語パートナーということで契約を結び、日本語のサポートを行っています。海運、陸運、空運で、例えばコンテナを送る際にGHGをどれくらい排出しているのかを各国の基準に合わせて算出し、比較してグラフにするというツールです。また製品ごとにCO2がどれくらい排出されているかを測ることを、ライフサイクルアセスメント(LCA)と言いますが、製品の原材料が採掘されるところから加工、販売、廃棄に至るまでのライフサイクル全体に関わるGHGの排出に責任を持とうという動きが、カーボンニュートラルの設計に繋がっています。

脱炭素をしてもどうしても減らせないものに対しては、オフセットという形で吸収するプロジェクトとペアリングをしてカーボンニュートラルを達成します。今非常に注目されているのがバイオ炭素です。バイオ炭を作った時に植物が成長してCO2を吸収しますが、出来上がった商品の他に残渣ができ、それを放っておくとメタンになり温室効果ガスを排出します。メタンの排出を抑えて土中に埋めることでクレジットを作るということがJクレジットにもありますし、Verraでも一つの手段になるということが昨年宣言され、おそらく今年そのようなクレジットがデビューします。今日本はソーラーや風力発電の注目が高まっていますが、省エネ再エネよりも、貯留型のクレジットというところに今非常に注目が集まっています。省エネは実際排出しているCO2にブレーキをかけた分でのクレジットで、それよりも貯留をして大気へポジティブな影響をどれくらい与えているかが重要だと思います。

長期視点で見た時に、2050年にはカーボンニュートラルになりますが、SBTの宣伝をしていると、他の会社よりもアドバンスを取って10年15年で先に達成していこうという意欲的な目標を設定しますので、それぞれの業種で全く違うアプローチをしながらカーボンニュートラルに対して一歩ずつ歩みを進めているところです。

我々は様々な国際的な認定を受け、会議にも参加をさせていただいています。気候変動対策は、イギリスではよく旅に例えられます。旅はお金と時間を使うだけの無駄なことなのでしょうか。旅によって自分の価値を高め、リフレッシュして、社会の中でのアイデンティティを確率して、ポジティブな影響を与えるというように考える方が多いのではないでしょうか。気候変動対策も同じように、自らの価値を高めて持続可能な組織として社会のアイデンティティを高めるのだと考えています。気候変動の旅、機会がありましたら一緒にできることを楽しみにしています。

ご清聴ありがとうございました。

卓話『障がいのある人と一緒に』令和5年3月6日

NPO法人スペースシップ2009 役員/神奈川県立岩戸養護学校&金沢養護学校で非常勤講師 黒住 直様

NPO法人スペースシップ2009 役員/神奈川県立岩戸養護学校&金沢養護学校で非常勤講師 黒住 直様

私は現在神奈川県の特別支援学校での非常勤講師とともに、NPO法人スペースシップ2009の役員を務めています。このNPOは、障害のある人もそうでない人も一緒に楽しむ余暇活動を提供することで,バリアフリーで健康な地域社会づくりに寄与することを目的としています。

今日はさまざまな障害のなかで学習障害や知的障害、自閉症などについてお話します。

最初に学習障害の一種、読み書きの障がい(Dyslexia)の友人(岐阜県の特別支援学校の教師)のエピソードをご紹介します。

※彼は文字を読むのが苦手で、文字を見て声に出すことができても、その意味をくみ取ることが困難です。読む速度も遅く、子どもの頃から教師や友人から責められ続け、自分でも「自分は馬鹿だ」「努力が足りないんだ」と劣等感を募らせ、自棄になっていました。

高校卒業後「自分のことを誰も知らない土地でやり直したい」と考えて自衛隊に入隊しました。自衛隊では秘密保持のために、文章よりも口述による伝達と実物操作による教育が中心で、同期よりも早く正確に多くのことを習得し、自信を取り戻しました。新隊員の教育係も任され、教えることに向いていると考え、教員免許取得のために夜間の短大に通学。厳しい訓練と学習の両立は苦しかったが「自分のように勉強が苦手な子の気持ちが分かる教師になり、自分が体験した辛い思いをさせない教育を」という強い思いのもと教員免許を取得し、中学校で不登校や非行の生徒と向き合い、特殊学級も受け持ちました。

その後たまたまテレビ番組を見て、自分が読み書きの障がい(Dyslexia)だと気づきました。ショックでしたが自分の努力不足ではなかったと分かり、頭の中のモヤが晴れた気がしました。

数年後全国から集まった特殊教育の研修の場で仲間の教師と接する中で、このことを告白しました。ばれないようにといつも細心の注意を払うこともなく、自分らしく自然体で生きられるようになりました。

文字を読み書きすることが苦手なことが、そのことだけでなく、それにかかわる様々な苦しさを産んでいくことのご理解につながれば、と思います。

次に知的障害についてお話しします。

知能指数(IQ)は知能検査の成績から算出された精神年齢を実際の年齢(生活年齢)で割り算した数を百倍したものです。例えばIQが50ということは20歳では半分の10歳程度の知能になる、ということです。障がいの重さによって支援のポイントも変わってきます。

△軽度 (おおむね IQ50-55~70)の人の場合

・暗算やおつりの計算といった金銭管理、抽象的な思考や文章の読み書き、計画を立 てること、優先順位をつけることなどが苦手です。

・言葉の使い方やコミュニケーションで、未熟な点が見られることもあります。

・身の回りのことでは支障なくこなせることが多いです。

・家事や子育て、金銭管理、健康管理や法的な決断は支援が必要です。

△中等度(おおむね IQ35~50)

・成人しても小学校程度の学習水準にとどまっていることが多いとされています。

・社会的な判断や意思決定、人生における重要な決断を行うときは支援が必要です。

・暗黙の了解とされるような事柄が苦手です。

・適切な支援や教育によって、身の周りのことができるようになる人が多く、支援が あれば、自立して仕事をすることも可能です。

・多動 怒りやすい(喜び易い) 自己刺激など

△重度 おおむね IQ20~40

・文章や数量、時間や金銭などの理解が難しいため、食事や身支度、入浴など生活上 の支援が必要です。

・「今、この場」の状態についての、単語や短い文章での簡単な会話のみ可能です。

△最重度の人(おおむね IQ20-25 以下)

・会話や身振りで、限られた範囲であれば理解できることが多い。

・身振りや絵カードなどを使ったり、周りの人の気持ちを感じ取ることができます。

・日常生活では指示や援助を必要とすることが多くなります。

・てんかん発作や生活習慣の乱れ

ことに軽度の方は、一見しただけでは「障がい」と分からないので支援を受けていないことが多く、周囲からぞんざいな扱いを受けることが多いのです。本人も、自分の努力が足りない、自分は駄目だ、と自分自身と責めてしまうことがあります。

またいじめの対象になることや、犯罪に走ってしまうこともあります。私は犯罪のニュースの中には、もしかしたら軽度の知的障害の方が混ざっているのではないか、早い時期に支援ができていたらこのような結果にはならなかったのではないかと感じることがあります。

自閉症について

昔は自閉症というと重い知恵の遅れを伴い、行動の障害があると言われていましたが、現在は知能の高い人にも自閉性の障がいがあり、知能や生活の具合によってさまざまな現れ方をすることから、自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder: ASD)と呼び方が変わりました。定義としては、社会的関係形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、物事へのこだわりの3つです。

話し言葉の説明よりも目で見えることの理解が得意(視覚優位)で、様々な感覚が鋭敏であり、私たちに比べると気温や気圧の変化などにも影響されることがあります。

高機能自閉症第一号と言われたアメリカのテンプル・グランディン(Temple Grandin,1947年8月29日 アメリカ合衆国の動物学者)、さんが「我、自閉症に生まれて」という本を出版したのは30年以上前のことです。テンプルさんは、帽子をかぶった時の感覚を「帽子が髪を押さえつけて痛い」、また純毛の服を着た感覚を「むき出しの神経突起部分を擦るサンドペーパーのよう」と表現しました。このような言葉の使い方が自閉症特有だと感じます。

自閉症スペクトラムの人は「自分の世界にこもりがち」「難しい言葉や文字を使う」「突然怒り出したり大声を上げる」世間からはこのように見えます。しかし自閉症スペクトラムの方の苦しさに触れてみると、彼らは感じ方や文章の組み立て方が普通の人とは違うので、彼らにとっては健常の人が「わけのわからない人」であり、日常生活が「わけのわからない大勢の人に囲まれている」という緊張感の中で過ごしていることになります。

自閉症スペクトラムの人の言葉の使い方は独特で、私たちが理解しにくい時があります。しかしわたしたちが彼らの言葉を理解することが難しいように、彼らから見るとわたしたちの言葉も彼らにとっては理解しにくいのです。

自閉症スペクトラムの人にとっては毎日変化し、様々なものが混在している状態は不安を強くさせます。できるだけ同じ環境であれば安心して過ごせると思います。

自閉症スペクトラムの原因はまだはっきりしておらず、おそらく複数の遺伝子が関係している先天的な脳の障害だろうと言われています。生まれつきの障害であり、治ることはありません。昔は愛情不足や育児の失敗などとも言われていましたが、そのような情緒の障害ではありません。

障害者権利条約には「合理的配慮」という文言が書かれています。「合理的配慮」には「具体的にこうせよ」という記述はありません。それぞれの人の障がいと場面に応じて組み立てるもの、ということになっています。

例えば自閉症スペクトラムの人であればでるだけ決まったやり方で、指示や説明はしゃべるだけでなく映像など目で見えるように配慮する、とか、知的障害の方には分かりやすい単語を使い、短い文章で話す、などが考えられます。

またこの条約の中には、合理的配慮の実施を怠ることはいけないと明記されています。雇用、管理する側としてご理解いただけるとありがたいと思います。

最後に静岡県にある「かなの家」という施設の広報誌に佐藤さんという方が書かれた文章をご紹介します。

※この文章に取り上げられている人は失敗や叱責されることが重なり、結果的に自己否定的な考えを持ってしまい、仕事に向き合おうとするとき「駄目だ」と言われる恐怖を感じて、失敗する前に自分で仕事を壊してしまうことを繰り返しています。

こういう見えない恐怖を共感するには、力のある立場ではなく弱い人の立場に立つことが重要だと考えます。

しかし自分以外の弱者の立場に立つということは可能なのでしょうか。

教員になりたての頃「本人の気持ちになって、親の立場に立って考えろ」と先輩によく叱られました。今もずっと考えています。ずっと考えてきて、結局自分は自分の立場にしか立てず、他の誰かの立場に立つことはできないのだろうと思っています。しかしその人の立場に立とうと思うことはできる。「親の立場、本人の立場には立てないけれど、立とうと思い続け、立とうと思っていることを伝えることはできるだろう。そこを続けよう。」この思いを大切にし続けていきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。



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