卓話
2022年5月
卓話『Beyond SDGs:リジェネラティブな未来のために「今」求められる企業の変革』2022年5月30日
一般社団法人Earth Company 代表理事 濱川 明日香様
わたしが社会課題の解決に関わっていきたいと考えるようになったのは、大学の最後の年に訪れたサモアという島国がきっかけです。電気も水も通っていない自給自足の素朴な生活の中で、何もないけれどもすごく楽しそうに生活をしていて、生きること、幸せ、豊かさとは何なのだろうと考えさせられました。中でも一番大きな影響を与えられたのが気候変動の影響を目の当たりにしたことです。海面上昇の影響でヤシの木が倒れたところへ海水が入り、また砂が取られてしまうということが既に20年前に起こっていました。干満の差が激しくなる満月と新月の日に、波が押し寄せて家の中に入ってきた時の子どもたちの心配そうな顔を見て、大きな国が発展するために小さな国を犠牲にしていいわけがない、子どもたちの未来を奪ってはいけないと強く思いました。その後、途上国や環境に犠牲を生んでもよしとする資本主義の在り方が良くないのではないかと考え、利益最優先型の社会の仕組みやビジネスの仕組みを見るためにコンサルティング会社に就職しました。それからは気候変動の研究や各地の災害の復興支援、海面上昇により世界で一番先に沈むと言われているツバルという国の支援に関わり、アース・カンパニーを設立しました。
アース・カンパニーの活動の背景となっているのが、わたしがキャリアの中でずっと見てきた「地球はずっと前から非常事態だ」ということです。皆さんは世界的な新型コロナウイルスは非常事態だと思いますか。もちろん非常事態なのですが、世界を見回せば、それ以上に大きな非常事態が他にも多々あるのです。例えば2020年にコロナで亡くなった方は200万人いましたが、1歳になることもできずに亡くなる赤ちゃんは毎年平均400万人、15歳になることができずに亡くなる子どもは630万人、貧困によって亡くなる人は1800万人います。毎年です。且つ難民は8240万人、紛争地域に住む子どもの数は4億人もいます。そして気候変動の影響を免れることができる人は地球に住んでいる以上いないという意味では、地球の全人口79億人がいずれ被災するという現状でわたしたちは今暮しています。世界はずっと前から非常事態です。
2050年、どのようなことが起こるでしょうか。地球上の95%が荒廃する、100万種の動植物が絶滅する、珊瑚が全滅するなど、たくさんの非常事態が予測されており、これから数年間の私たちの行動が今後数千年に渡って地球に影響をもたらすと言われています。わたしたちは人類の歴史の中で分岐点に立っているということです。元アメリカ大統領のオバマさんは、「わたしたちは気候変動の影響を体験する最初の世代であると同時に、これについて何かができる最後の世代」と仰っています。
では、どうしていけばいいでしょうか。今わたしたちが暮らしている世界は、発展するために課題を生み続けてしまうことが大前提としてあります。解決しながらできる限りネットゼロにしていこうという考えがサスティナビリティですが、しかしそれでは十分ではないと言われています。それならば課題を生み出さないやり方を追求していくという考えがサーキュラーエコノミーで、解決しなくていいように課題を生み出さないやり方を目指そうという流れになりつつあります。
今わたしたちの世の中には大きな変革が求められています。本当に理想的な世界とは何かを考え、目的から逆算した行動を起こし「リジェネラティブな世界」を作っていかなければいけません。これは、わたしたちが生きれば生きるほど自然を破壊したり途上国の誰かを犠牲にすることではなく、わたしたちがいればいるほど、ビジネスが発展すればするほど世の中の人たちが幸せになっていく、地球上のすべての命のWell-beingが向上していく在り方と言われています。
そんな在り方をつくるためにわたしたちは色々な活動をしているのですが、一つはチェンジメーカーの支援、もう一つは未来をつくることができる人材を育成するための研修事業を行なっています。2014年にわたしと主人で発足し、現在40人ぐらいのチームになりました。アジア太平洋から年に1人未来を変える変革力を持つチェンジメーカーを厳選し、3年間支援をしています。彼らが取り組んでいるSDGsは、環境、平和構築、難民問題、医療、LGBT、環境問題など多岐に渡ります。約8年間で9000万円を超える寄付金を皆様から賜ることができ、学校や助産院などを7ヶ国8ヶ所建設し、今まで101万人に支援を届けてきました。また事業が発展すればするほど、地球上の人や社会、環境が良くなっていく、本当の循環型のリジェネラティブビジネスの仕組みを作りたいということで、次世代に繋ぐ未来の一例、エシカルホテルをバリ島ウブドに2019年に立ち上げました。サステナビリティもリジェネラティブも、直球メッセージで自然によくしましょうと言ったところで届いていないなと感じており、サステナビリティを皆がやりたい関わりたいと思うような、何かしらのインセンティブになるような形にしないと広がらないと感じていたので、ホテルやレストラン、ショップという形をとりました。屋根にはソーラーパネルがあり、照明の100%近くを賄っています。またバリ島は観光客が水資源の65%を使ってしまうため常に水不足であることから、ホテルでは雨水を利用し、排水も植物を育てる中でフィルターにかけ、綺麗になった水を自然に還しています。パーマカルチャーガーデンで育てたオーガニック野菜を使ったレストランと、人と社会と環境にいいものしか売らない地産地消のエシカルマーケットもやっています。コロナで大打撃を受けましたが、そんな中でも色々選出や受賞をさせていただき、たくさんの関心が世界中から集まっていると感じています。
「あなたの会社が存在することで世界はより良い場所になっていますか」「あなたの会社は世界の課題を解決することで収益を上げていますか、それとも課題を作ってしまいながら収益を上げていますか」元ユニリーバのCEOポール・ポールマンさんの言葉です。わたしたちが世界の課題解決の最前線の支援とサステナビリティの実践という2つの視点でお話させていただく中で、数々の企業から人材研修をしてほしいという要望を頂き、学生に加えて企業への研修も始めることになりました。元々はバリ島で研修を行っていましたが、コロナの影響で昨年はオンラインアカデミーとしてオンラインコンテンツを充実させ、リニューアルローンチし、学校と企業に対する研修を行いました。SDGsの必要性は、頭で理解しただけでは長期的なアクションに繋がらず、だからこそわたしたちが支援するチェンジメーカーたちの言葉で伝えることで心が動き、自分ごと化することができて初めて、行動への原動力が生まれるのだと思います。人と社会と自然が共鳴しながら発展するリジェネラティブな未来を造ることができる人材、サステナビリティリーダーシップを育成するプログラムを通して、世界でどのようなことが起きているかを理解し、自分たちの中からモチベーションが湧いてくる状態を作れたならば、会社としてビジョン、また次世代に対してこんなレガシーを残したいのだということを明確に定義することが大切で、そのビジョンを実現していく中で結果としてリジェネラティブな未来ができていくのかなと思います。わたしたちがアカデミーでやろうとしていることは、まさに今の時代に必要とされる、本物のサステナビリティ経営を行うことができる人・企業を増やすことです。
今、何が起こるか分からないという複雑な時代にわたしたちは生きています。その中で複雑性を理解する力を持ち、コミュニケーション能力を持ち、卓越した複雑な時代を乗り越えるスキルを持っていることが重要だと、ハーバード大学のロバート教授も仰っています。地球を救える最後の世代であるわたしたちは、この大事な数年間でどんなレガシーを残せるのでしょうか。わたしたちアース・カンパニーと一緒に考えていただけたら嬉しく思います。
ご清聴ありがとうございました。