卓話
2022年2月
卓話『現代アートのマーケットについて』2022年2月28日
小山登美夫ギャラリー株式会社 代表取締役社長 小山 登美夫様
皆さんご存知の大原美術館や松方コレクションなどの素晴らしいコレクションは、日本に本物の美術を見せたい、美術館を作りたいという彼らの強い想いから作られたものですが、それとは少し変わってきている状況についてお話しいたします。
今アートブームというのが起こっていて、ニュースでも色々なアートのことが取り上げられていますが、昔からバブルがあったのと同じように、日本の中にアートブームがありました。
1980年代後半からのバブルの時期のアートブームは非常に強烈で、美術作品は必ず値段が上がるというよく分からない信念の元で美術作品を買い、価値が上がったらそれを売り利益を得られる、ということを皆信じていて、かつそれに対して金融機関がお金を貸すということがありました。
80年代のアートバブルの時は作品の善し悪しより名前で買うということが起きていて、ルノアールだったらいいだろう、シャガールだったら間違いない、という感じで作品を買っていたのです。今のようにネット環境というものがありませんので、情報の落差というものがあり、本物の作品があるヨーロッパやアメリカと比べると、日本で購入していた人たちは情報が遅かったのです。
今はそういったことがほとんどなく、インターネットで作品を買う人も多いです。ギャラリーが発信するプロフェッショナルなアーティストの作品もありますし、インスタグラムで個人が画像をあげて売ることも、それ買う人たちも増えています。
それとアートフェアというものが、今は毎月世界中のどこかで行われています。世界中のギャラリーが集まってきて、世界中のアーティストの作品が実際に見れて、かつそこで売買されています。ネットの画像だけではなく、実際の作品を見ることができるというのが今の状況です。
最近アート思考についての、いろいろな本がでています。アートを見て、どういう考え方でこの作品を描いているのだろうか、とういことを作品から直に読み解くことで、固定観念で絵を見ることが少しずつ無くなってきています。いわゆる有名なものが良いというのではなく、面白いものを見つける、ということと繋がっている気がします。
昔の、憧れであったヨーロッパの美術作品を買って、日本人に啓蒙しよう、世界に追いつこうという意識が、自分達の地域で生まれてきた美術を自分達の考え方で見よう、評価しようという意識になってきたのではないかと思っています。
日本の美術がこのようになってきたのは、欧米で日本のアーティストや美術活動が評価されたということがあります。森美術館で先日「STARS展」というのがありました。あのメンバーは、日本だけではなく、世界の第一線で活躍しているトップのアーティストです。
あとは、具体美術というものが非常に評価を受けました。具体という活動、戦後の世の中からでてきた、自分達の身体を使ったパフォーマンスのようなものから出てくる作品が、ヨーロッパやアメリカの人にとって非常に面白かったようです。具体美術は、ほぼ50年後に2009年のヴェネツィア・ビエンナーレ、2013年のグッゲンハイム美術館での大規模な具体展でさらに評価されました。それが確実に具体美術のマーケットに強く影響を与えたのです。個々のアーティスト達の成功と具体美術のマーケットでの成功は、日本の美術を愛好する人たちにとっては非常に自信になったことは間違いなく、希望というものがいろんな美術に対して見えることになったことは確かです。
2003年に森美術館が設立されましたが、この美術館がやった非常に大切なことは、ミッションをきちんと持つということです。自分達の時代の美術館、アジアの美術館という役割をきちんと自覚した美術館が作れたのです。それができたということが世界的にも、すごく大事なことだと思います。自国のエリアの美術館に自信を持った人たちは、自分達の目で周りのアーティストを見ることができるようになっていきます。
特に最近若い経営者や起業家がアートコレクションに興味を持っているのです。ビジネスも表現と言えるのですが、単純に作品を展覧会で見て買うというだけではなく、起業家と美術を制作している人が友達のように繋がっていて、アーティストが憧れの存在ではなく、一緒の地平にいる表現者として彼らには同等のものとして見えているのではないかと思うのです。そういう友人のようなアーティストをサポートし、コレクションし、かつ事業を成功している人たちは、前のバブルのように、それでお金を儲けるということをあまり考えていないの人が多いのです。
ですがマーケットが起こってくるといろいろな人がいて、オークションで作品が売買されることもあります。しかし作品の流動性が高いという事自体はマーケットにとっては必要なことで、日本のマーケットが成熟してきているのではないかと思います。
本当に好きで自分の同時代の人の作品を買うコレクターがいて、それを売ることができるセカンダリのマーケットもあるという状況、それが前のバブルのように投資に傾き過ぎていないという事は、すごく健康な状態と言えるのです。
美術家がミッションを持つというのももちろんですが、コレクター達もアーティストを、もしくは自分達のコレクションをどういうかたちにしようという意思を持つことが大事で、そうすれば更なる日本の美術と美術に対する日本のマーケットの飛躍があるんじゃないかと思っています。
ありがとうございました。