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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2021年12月

卓話『~ふりさけ見れば~について』令和3年12月6日

歴史小説家 安部 龍太郎様

歴史小説家 安部 龍太郎様

日経新聞で、「ふりさけ見れば」天の原 ふりさけ見れば 春日なる三笠の山に 出でし月かも 阿倍仲麻呂が詠んだと伝わる歌からタイトルを取り、連載をさせていただいております。百人一首にも採用されたこの歌は、日本人が一番よく知っている歌ではなかろうかと思います。

なぜ遣唐使の物語を書こうと思ったかといいますと、今から30年程前、わたしが30代半ばだった頃に遡ります。30年程前、豊臣秀吉の朝鮮出兵の時に明国側がどのような動きをしていたのかを調べるため、約1ヶ月間中国を旅し、感銘を受けたことがありました。我々歴史時代小説家は主に日本を中心として物事を考えていますが、中国の歴史に触れ、日本の視点だけで日本の歴史を見ていたらいけないのだと強く思ったのです。日本とユーラシア大陸の関係、あるいは日本と東アジアの関係を把握しておかないと、日本の歴史も文化も正確には分からない。例えば日常使っている漢字や仏教、それから儒教や年中行事も、日本が一番親密な関係を持った中国の唐の時代に遣唐使が学んで日本に伝えたものです。日本の小説だけではなく、日本と中国、あるいは東アジアに跨る小説を書かないといけないと思いましたが、しかしまだ30代半ばの若い作家がそのような本を書いても日本の読者はついてきてくれないということと、今の力量でそれだけのことが書けるかという問題があり、着手できないまま20年が過ぎました。

その間わたしは日本に受け入れられる戦国時代や幕末の小説を、日本の歴史を追いかけるように書いていました。2013年に等伯という作品の連載が終わった時、日経新聞の会長に、日本経済界訪中団で中国に行くから一緒に行かないかと誘っていただき、1週間ほど旅をしました。20年ぶりに訪ねた中国はだいぶ変わっていましたが、30年前に受けた感銘は変わらないままでした。西安の興慶宮を訪ねた際に阿倍仲麻呂の記念碑があり、日本と中国を結ぶ物語というのは遣唐使を書けばいいのだと閃きました。

遣唐使は総勢約2300人、200年の間に20回以上海を渡っています。亡くなってしまった人や中国に残ったまま帰ってこなかった人もたくさんいます。仲麻呂は717年に遣唐使として中国に渡りました。その時代は日本の黎明期で、日本が単一民族になって朝廷の元に公平な国をつくるという一つのビジョンがありました。統一国家をつくる上で基本にしたのが当時の隋や唐の政治制度である律令制度です。律は刑法で令は行政法ですので、権力者の思うままになる国ではなく法治国家をつくるということです。それから仏教の受容です。唐は異民族の国で、隋王朝時代は今の山西省あたりを根拠地としており、唐の皇帝の中には鮮卑族の血が色濃く入っています。ステップロードを移動しながら商業をする通商民族でもある彼らは開放的で、阿倍仲麻呂のような外国人でも、秘書監(秘書省の長官)、大臣にまでするという公開性と公平性がありました。西暦710年の平城京造営は唐の都城にならった東アジアの標準規格で、朝鮮半島やベトナムにも同じような都城があります。唐の同盟国であることを証明するために同じ都城を作らなくてはいけませんでした。唐の皇帝は天から地上を支配する権力を受け継いでいるから、周辺の国に対しても教化をしなければいけないという中華思想の影響によるものです。

日本という国ができた根幹には、遣唐使たちが持ち帰ったあらゆるものが埋まっています。文化的蓄積や資料的蓄積を高め、新しい制度を作る際の基本資料にしようとしていた時代、ここを勉強して東アジアと日本の関係をしっかりと見据えれば、わたしが30年前に思ったことを実現できると思い取り組んでいます。

日経新聞の会長より、新聞小説欄から読者が少し離れているから、小説の中では特効薬となる色っぽいシーンと、中国の昔の宰相たちの偉さの本質を書いてほしいという特命を受けました。なぜ日本人は中国の政治制度を手本とし、宰相たちの生きざまを尊敬し、素晴らしいと思えたのか。また、一番難しい試験に合格して出世の階段を上り、朝廷が保存している膨大な資料、隠された書物まで見ることができる秘書監になった仲麻呂。一番重要なエッセンスを日本の遣唐使たちに持ち帰らせることが可能になった仲麻呂が知りたかったことは何だったのか。天皇中心の新しい国をつくろうとする時に、これだけは押さえておかなくてはいけないという情報は何だったのか。これが「ふりさけ見れば」のテーマでありクライマックスになります。秘書監になっても見ることができない書物があることに気付いた仲麻呂に、安禄山の乱でチャンスがやってきます。来年の12月にクライマックスを迎える予定です。最後の秘密とはなんだろうと楽しみにしていただけたらと思います。

本日はご清聴ありがとうございました。



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