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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2021年4月

卓話『築地本願寺の経営改革』令和3年4月19日

浄土真宗本願寺派築地本願寺 代表役員宗務長 安永 雄彦様

浄土真宗本願寺派築地本願寺 代表役員宗務長 安永 雄彦様

わたしは慶応大学を出たあと、三和銀行に約21年半在籍しました。2000年に銀行を辞め、ラッセル・レイノルズという外資系のエグゼクティブサーチコンサルティングの会社に入り4年間修業した後、島本パートナーズでオーナーの後を承継して経営兼プレイヤーをやらせていただいておりました。まったく僧侶になるつもりはなかったのですが、銀行時代にモビットの立ち上げから不良債権の回収、リストラクチュアリングに至るまで、ありとあらゆることをやってきた中で、このままでいいのかという思いで銀行を辞めた経緯もあり、そういったことを払拭するために中央仏教学院に入り、仏教を学び始めました。2005年、50歳の時に得度をいたしまして、先輩のお寺を手伝いに行くことになり、副住職になりました。このあたりからわたしの運命が急速に変わりはじめました。2012年から浄土真宗本願寺派の社外取締役になり、東京地区でどのように伝道すれば盛んになるかを提案したところ採用され、2015年に浄土真宗本願寺派築地本願寺代表役員宗務長に就任いたしました。

築地本願寺は全国の門信徒800万人、本山である西本願寺唯一の直轄寺院です。1617年に創建され、1679年に現在の築地に移ってきました。関東大震災で焼けてしまい、現在の築地本願寺は1934年に再建されました。また分院として和田堀廟所、慈光院、東久留米会館、あきる野本願寺、そして建て替え中である佃島分院があります。

株式会社と宗教法人の経営は違うのではないかと多くの僧侶から言われます。しかし経営目的はどちらも社会貢献という意味では全く同じで、きちんと経営せざるを得ないだろうと思います。収入なくして伝道なし、キャッシュフローがなければ成り立ちません。しかし宗教界を取り巻く環境は激変しており、人口減少やその他色々な原因により家族制度が崩壊し、檀家制度が希薄になっています。お寺の大きな収入源である葬儀にしても、一般葬が減り、家族葬が増え、宗教性が必要だと思っている人たちは三割しかいないということが分かってきました。尚且つ門信徒に対するアンケート調査を行ったところ、28%が不満に思っているという結果が出ました。態度が傲慢であったり、お経が下手であったり。これではやはり信用を無くしかねないと思っております。

お寺は宗教法人法により、法人であり、教義を広め、儀式を行い、信者を強化育成するとされています。わたしは通常の会社でいうところの代表取締役社長というポジションではありますが、ある意味、聖と俗を併せ持った不思議な存在です。教えを説いて儀式をする一方、法人の運営をしていかなければならない。尚且つ公益法人ですので、檀家さんの為だけではなく、より公益的な役割も求められています。宗教の関心が減少している中において、まず組織そのものが自己変革していくべきだろうと考えました。「強い者が生き残るのではなく、環境変化に応じて変化できる者だけが生き残る」という法則はお寺の業界にも当てはまるわけであり、坊主は偉いとふんぞり返っていたら、やはり滅びていくだろうということです。

宗教を信じている人が3割、信じていない人が7割という割合は戦後一貫して変わっておらず、しかし宗教心が大事だと思っている人は7割前後います。どこの宗派にも属していないけれども宗教心は大切だと思っている人はたくさん残っているわけです。この辺を復活の梃として、檀家制度に依存せず、個人を対象にした教団に変革をすること、またICTの活用や、データ分析に基づくマーケティングを実施し、より近代化していこうと考えました。またバーチャルとリアルを組み合わせた布教活動をして、未信仰の人々を引き付けるためのライフステージに応じた様々なワンストップサービスを提供しようということで、様々な活動をしています。

築地本願寺では、「寺と」プロジェクト という名前を付けて、ひらけ!!築地本願寺というスローガンを掲げ、様々な改革をしてきました。基本的には知る、来る、頼る、です。人々の暮らしに寄り添うことを目的として、インフォメーションセンターを作り、仏教に関する相談に応じます。また訪れた方に心の安らぎや寛ぎの時間や空間を提供できるよう、オフィシャルショップ、カフェやブックセンターを併設しています。また銀座サロンでは、仏教に限らず、ヨガやアンガーマネジメント、書道やカウンセリングの講座などを行っており、お問合せを一括して受けている築地本願寺コンタクトセンターもございます。

また核家族で家族が継承されていかない、お墓を維持できない、墓守がいない、しかしお参りには来て欲しいよねというニーズに沿う形で、境内地の中に合同墓を作りました。2017年11月の開設以来、納骨済みの方が3000名、生前予約をしている方が1万人ほどいらっしゃるという状況です。

これ以外に、エンディングステージのワンストップサービスということで、終活を考えている方への相談窓口や、浄土真宗の教義を尊重していただければ誰でも入れる築地本願寺クラブ、築地の寺婚ということで結婚相談所もはじめております。またライフタイムにおいていくつかお寺が必要になる時がありますので、その時を中心にご縁を深めていこうということで、会員を管理するCRMシステムも導入されています。ご縁のない方がご縁を結び、そしてご縁を深め、最終的には門信徒になっていくことを想定し、3年で徐々に手ごたえが出てまいりました。わたし自身の寺院経営の目的は、新しい門信徒の創造とイノベーションであり、新しい枠組みの中で新しいことを考え、寺の在るべき姿をきちんと見直していくべきだろうと、日々色々な改革を行っております。

仏教は人生観や死生観、哲学に近いもので、人間としての価値観が大切であり、全体的な観点から学ぶと考えております。ブッタは、富とか幸せは物質的な願望を満たすことでは得られない。幸せは何を欲しがり手に入れるかではなく、心の充足にある。世の中には生老病死、生きていることだけでも苦しい「苦」が存在する。その苦しみを減らし、人生の満足感を高める努力を説いています。

このコロナの時代に心豊かに生きるためには、まず大前提として自分の人生を主体的に生きることです。第一に、人生は思い通りにならないと諦めること。人生から嫌なことをなくすことは絶対にできない。人生は苦であるということを認めることが大事だろうと思っています。第二に、承認欲求を否定し、ありのままの自分を受け入れることです。周りの人への過度な忖度や遠慮はやめ、ネガティブな内面の声を受け入れることが大事ではないかなと思います。究極的には、人生で起きる出来事には意味はないことをどう解釈するかは、わたしたちが自分で選択していると考えています。第三に、神仏だけでなく、先祖、両親、縁のある他者に常に感謝をすることです。わたしたちの人生は、様々なご縁によって導かれており、ご先祖様がいることによって今のわたしがあることを素直に感謝することが必要だろうと思います。第四に、積極的に挑戦して失敗すること。失敗から学ぶことが人生最大の原動力になるだろうと思います。第五に、一日一生で毎日を生ききり、あと五年の生き方を貫く。もし明日死んでしまったらと日々問いかけながら生き、先延ばしせずに今やること。そういう生き方をしていくしか、不安定な時代を生ききることはできないのではないかと考えております。

人生で最も大事なのは時間です。時間をどうやって大切に生きていくかということが最も大事なことではないかと思います。人生の一瞬一瞬を、心を込めて味わい尽くすように日々を生きる感覚を身につけることが大事です。

最後に、もし今日が人生最後の日だったらどうしますか。安らかに死ねる人と、後悔しながら死んでいく人を分けるのは、人生でやり残したことがあるかどうかだと、帯津良一先生は言っています。夜寝る前に、今日一日心を込めて生きることができたかどうか、自問自答してみてください。他責志向に逃避することなく、今を生きることに全力投球をしていくしか、多難な時代を充実して生きていくことはできないのではないかと考えている次第でございます。

ご清聴ありがとうございました。



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