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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2018年9月

卓話『小児がん治療の進歩と問題点』平成30年9月3日

真部 淳様

聖路加国際病院 小児科 医長 真部 淳様

「小児がん」のことを普段考える機会は少ないと思います。しかし実際には、今現在がんと戦っている子どもたちがたくさんいます。

小児と成人のがんの違い

小児がんと成人のがんはまったく別もので、種類や頻度、また治療への反応も違います。成人では取りきれたら治り、転移し全身に広がっていると難しいとされていますが、転移した状態で見つかる人は全体の2割程で、多くは外科治療がメインになります。一方で小児は白血病が多くを占めるということもあり、診断した時に体中に広がっている人が半分以上です。しかし小児がんは薬がよく効きます。抗がん剤を点滴すると全身に広がっているがんを全部追いかけてくれます。抗がん剤は元々小児がんの為にできた薬でした。

成人は1年に約80万人が罹患するのに対し、小児は1年間に2000人程で、希少がんと言われています。しかし種類が多く、白血病をはじめ、悪性リンパ腫、組織球症、脳腫瘍、神経芽腫、肺細胞性腫瘍、網膜芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫などがあります。胃がんや肺がん、大腸がん、乳がんという成人にみられるがんはまったくといっていいほど無く、違う病気という認識をしていただきたいと思います。小児がんは、これが小児がんだという明確なものがなく、様々な種類を小児がんの専門家が診ているため大変なプレッシャーがあるのも事実です。

生存率

生存率を見てみますと1960年代には20%程度だったものが、現在では80%と急速に上がっています。聖路加病院に限っては10年生存率が70%、固形腫瘍は50%です。すべての種類の生存率が高いわけではありませんが、いずれにしても放射線や抗がん剤が効くので、全身に広がっているので諦める、ということはしません。そして小児の場合、3000日経過後亡くなることはほとんどありません。

知る権利と告知

子どもたちに病気をどう理解してもらうか。これは大変難しい問題です。1994年に日本で「子どもの権利条約」が批准され、子どもにも知る権利があり、きちんと説明を行なっていこうということになりました。本人に分かるように説明すること、嘘をつかないことが大変重要です。幼児には身体の中に何が起こっているのかを説明し、自分の病気を理解してもらいます。サイエンスに興味をもつ年齢になると、病名や治療期間、髪の毛は抜けてしまうがまた生えてくるという話をします。告知前と告知後の絵を見比べてみると、告知後のほうがのびのびとした絵を描いているという結果も出ており、納得するよう説明することによって治療に協力的になります。

治療終了後も、出産や他の病気に罹った際には既往歴は大変重要で、聖路加病院では、病名や治療の経過、使用した薬や量など、すべてのデータが詳しく書かれた治療終了証書を渡しています。また、病気を受け入れ正面から立ち向かい、見事に克服したことを褒め称える賞状を渡しています。その際ご両親が涙する場面もあり、多くの方に支えられながら送り出された子がたくさんいます。

子どもと家族を支える専門職

聖路加病院では、入院している子どもたちに少しでも楽しい気分になってもらうため、機関車の模型が設置されています。怖いと思うような点滴などの治療は負担を少なくするため眠らせてから行うことが多いです。医療を行わない小児心理士や保育士、院内学級の先生、ソーシャルワーカーといった専門家も非常に重要です。心理的なサポートや生活面、学校や経済的なことまで様々なサポートを行っています。海外ではチャイルド・ライフ・スペシャリストやホスピタル・プレイ・スペシャリストといった方が活躍されており、治療に関する恐怖心を取り除き、トラウマ防止の観点からのサポートがあります。しかし現在日本には制度がなく、海外で資格を取得した人が日本で活躍していますが、日本も制度を作ろうという動きになってきています。

課題

1969年にTCCSG「東京小児白血病研究グループ」が発足して全国に広がり、日本の小児がんの患者は皆同じように治療ができるようになりました。厚生労働省や文部科学省からも研究費用が出ています。病院の中でも数が少ない放射線科や病理などは、日本全体の中央診断をするようになり、症例が少ない小児がんでも診断が正しくなされ、治療ができるようになってきています。また、がんの子どもを守る会や、小児がんの患者を支えるネットワーク「ゴールドリボン」の活動により、治療研究などへの経済的支援を求める運動を行っています。しかしながら、患者への長期フォローアップに充てる費用はまだまだ足りていないというのが現状です。

小児がんは、これからも100%の子を後遺症がないように治さなければならない、治療を開発していかなければならない病気です。

子どもたちをなんとか治し、そして長期に渡って困ることがないようにしていきたいということが私たちの願いです。

ありがとうございました。



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