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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2018年2月

卓話『政治家と言葉』平成30年2月19日

老川 祥一様

読売新聞 取締役最高顧問 老川 祥一様

本当に言葉というものは難しいもので、特に政治の世界になりますと言葉ひとつで局面がガラッと変わってしまいます。卑近な例で言えば去年の小池百合子東京都知事ですね。都知事選は自民党を敵に回して圧勝、それに続いて去年の都議選で小池さんが率いる勢力があれよあれよと言う間に第一党になってしまいました。そこにきて衆院解散で、小池さんが希望の党を創設しました。読売新聞の最初の世論調査では19パーセントぐらい支持率ありました。これには自民党も相当議席を持って行かれるのではないかと、危機感を抱いたのですが、それからしばらくして例の「排除」発言がありました。これは理屈から言いますと、別におかしいことではありません。政党というものは政策、考え方、理念、こういうものが一緒の人たちがひとつの政治勢力をつくろうというものですから、考え方が違う人は入って来られたくないという意味なのでしょう。その限りではもっともな話なのですが、「そういう人は排除する」この一言が、人を上から見下して傲慢だという印象を与えたのかなと思います。それで急速に新党ブームが萎んでしまって、今希望の党の支持率は先週の読売新聞の世論調査で1パーセントでした。一回ケチがついてしまうと回復するのが難しいとういことですね。

そういう風に言葉ひとつで局面が変わってしまう。安倍さんなんかもそうです。例の森友学園、加計学園などの問題で未だに苦しんでいます。1年以上前から同じようなことを繰り返しやっている訳ですが、あれも事柄からすると、さほど政局的に問題になるようなことでは多分無いのでしょう。しかし安倍さんは、「もし私に関係があったのなら辞めます」と啖呵を切ってしまった。これですっかり論点が、安部さんが関係があったか、無いかに絞られてしまって、問題を引きずってしまっています。

やっぱり言葉は気を付けなければいけないなと改めて思う訳でありますが、それでも安倍さんの支持率は読売新聞の世論調査によりますと、54パーセントです。ここ数か月大体50パーセントを超えて非常に安定していると思います。去年の自民党の党則改正で総裁任期が「連続2期6年」から「連続3期9年」ということになりましたので、もし今年の9月に安倍さんが三選されますと、任期は2021年の9月までということになります。通算すると安倍さんの在任期間は3567日になります。これは戦後最長どころか、明治維新以後、歴代総理大臣の今までの最長在任記録は桂太郎の2886日ですので、それを大幅に上回る空前の超長期政権になります。これはご本人も相当意識しているだろうと思います。去年党則改正があったときに、私がそういう数字になりますねと言ったところ、本人もちゃんと計算していて、桂太郎の出身地も私の地元の山口県なのだよと言って非常に嬉しそうにしておられました。その際には自分自身私自身の経験を言ったのですが、私が社長になったときに私の友人が「君の敵は君だよ」、つまり誰も社長に、そうしてはいけないとか、それをやめろとか言う人はいなくなるから、自分で余程気を引き締めないと危ないぞということを言われて、なるほどと思ったものですから、その話を安倍さんにしておきました。

言葉をどういう風に使うかというのは政治家にとっては大変なことでありますが、最近はちょっと言葉の使い方が全体として軽いといいますか、深みのある言葉が少ないなと思います。竹下内閣の重鎮で、自民党、幹事長、副総裁をされた金丸信さんは、わざと言っているのかどうか分からないのですが、国会が党対決で混乱して空転しているようなときに、「そろそろタイムメリットだな」と言ったりしました。タイムリミットの間違いじゃないかと思うのですが、ただ言われてみると、時間をかけて野党に騒ぐだけ騒がせておいてくたびれてきて世論もそろそろどうにかしろという状況になるのを待っていたと、だから時間をかけるというのはメリットがあるという意味かな、なんて聞く人に勝手に考えさせて流石深いな、なんて受けとられたりすることもあるのです。言葉ひとつで言い得て妙ということもあります。

田中角栄さんは自分の秘書官が結婚するときに、お祝いに色紙にこう書かれたことがありました。『末ついに海となるべき山水も しばし木の葉の下くぐるなり』いずれ大海になる、そういう力量のある人物でも時にはでも枯葉の下をくぐるような辛抱が必要だという意味でしょう。あの角さんでさえ、そういう思いを胸にしながら政治をやっていたのだな、ということをしみじみ感じました。

それに比べると最近の政治家の方々は冗談もあまり面白くないし、つまらぬ失言をしたり、言葉のレベルが落ちてきているなと思います。小選挙区の下ではで党の公認さえもらえば、それで都選は安泰ということで、学歴あるいは経歴が立派だということで公認候補にしたけれども、当選してみたら、どうも人間的に出来ていない、というような人が増えてきたのかなと思います。

田中角栄さんは「学歴は過去のものだ、経歴は自分で今から作るものだ。」と若い人に言っていたそうです。そういう味わい深い言葉を当時の人は言っておられたし、そういう時代に現場の取材をさせてもらった私も幸せだなと思っています。

ありがとうございました。

卓話『2018年の世界経済』平成30年2月5日

行天 豊雄様

国際通貨問題研究所 名誉顧問 行天 豊雄様

今年はアメリカと中国、この世界で1番2番の大きな国の関係がどうなるのかということが、日本を含めて世界全体で重要である気がしています。世界の中でアメリカと中国が経済、軍事、政治で果たしている役割が歴史的に考えても非常に大きくなっていますし、また、この両国が実はそれぞれの国の中で大きな変革を迎えようとしています。

アメリカという国は戦後世界の中で唯一の超大国ということで、あらゆる意味で世界をリードしてきました。第二次世界大戦が終わった頃、世界中の国が戦争の参加によって疲弊していましたけれども、その中でアメリカは世界経済の復興に大変力を尽くしてくれたと思います。戦後のアメリカは、紛争の際には軍隊を送って治安の回復に努め、貿易の面では戦後自国のマーケットを世界に開放して世界中から物を輸入しました。世界経済、世界全体の安定のために努力をして、そのことによってアメリカ自身が負担を被って、結果的にはアメリカの国力を弱めることになってしまいました。

ここにきてアメリカは、「もうこれ以上自分のことを考えないで、世界の為に何かをする事は出来ない」というようなことを言いだしました。ところがそれに対して世界はアメリカが自分のやるべきことをやっていないじゃないかといった批判をして、食い違っていることが最近の世界の情勢の背景にあるような気がしてなりません。ある意味では世界はアメリカが指導者として面倒を見てくれるという、そういう体制になり過ぎてしまっていて、アメリカがもう面倒を見きれないと言ったことに対して非常に強い反発をしている。これが一体どうなるかというのはアメリカのみならず、世界全体にとって大問題だろうと思います。

それから中国も非常に大きな問題を抱えているように思います。1949年に毛沢東が現在の中華人民共和国をつくりました。そして1970年代の終わり頃に、鄧小平という2代目の指導者が出てきました。鄧小平の政策の下で中国は驚異的な経済発展を遂げて、瞬く間に世界第2の経済大国になりました。鄧小平政策は大成功したのですが同時に、経済成長が毎年10パーセント以上という状態が20年以上続いた結果、環境が破壊され、また資源の枯渇という問題が起こりました。また、社会の格差の問題が発生し、汚職が蔓延し社会のモラルが崩れてしまいました。つまりもう今までのようなスピードで経済を発展させられないと同時に、腐敗汚職等の問題が起こって、これまでのように成り立たなくなりました。

習近平という人の登場は、毛沢東、鄧小平の時代に次ぐ、第三の中国の時代を背負って立たざるを得なくなった中国の状況が背景にあると思います。習近平は、まず汚職を徹底的に摘発して社会のモラルの復活を行いました。同時に経済政策については7パーセント前後の成長を続けて、国全体があまり格差を生まないような社会をつくっていかなければなりません。これが習近平時代の国内の問題だろうと思います。そして習近平は世界における中国をどうするかという、もうひとつ大きな課題を背負わされています。

アメリカも中国も内容は違いますけれども、国全体として非常に大きな歴史的な変化をせざるを得なくなり、またその為に今までとは変わった指導者がアメリカにも中国にも生まれているのです。この両国がこれからどのような関係を築いて、その結果世界はどのように変わってくるかというのは、本当に重大な関心事項であると思います。

そういう中で今の日本というのは満足感と不安感が綯い交ぜになっているような状況であると感じます。新聞やテレビを見ていても良いニュースばかりです。日本経済はずっと回復を続けていて、日本という国は非常に良い国だと報じています。日本人の生活の質は世界一だというのは決して嘘ではないと思います。ところが問題なのは、そのような満足感をもたらすような話があると同時に、どうもそれだけではなさそうだと感じられることです。では、どこにそういう不安感があるのかというと、確かに日本経済はこの5、6年成長はしていますが、成長率は1パーセント前後で、おそらく主だった国で日本の経済成長率は最低です。その最たる原因は、人口が高齢化して且つ減っていることです。そして、日本では高齢者の比率がどんどん増えているので、社会保障の負担がこれから増える一方です。しかもそれを支えるための若い世代の数が減ってしまう為、どう考えても今から10年も経てば現在の年金、医療保険、介護保険といった社会保障制度はもたなくなります。これから日本がやらなければならないことは非常にはっきりしています。社会保障、税金の制度というのは変えなければなりません。そして、人口問題についてはなんとかしなければなりません。どうしたら若い世代がより多くの子供を作ろうと思う、そういう社会に出来るのかということを考える、それと同時に今まで日本が非常に冷たかった移民の受け入れということについて、真剣に考え直さなければいけない時代がきます。それから最近、特にIT関係を中心とした分野で、日本の企業の国際的な競争力は劣ってしまっていますので、もう一度やり直す為には今あるいろいろな規制を撤廃して、若いやる気のある人に新規参入をさせるということが大事だと思います。

これからアメリカと中国という二大大国のせめぎ合いの中で、日本が世界で取り残されないよう努力を続けなければならないと思います。2018年はそういう歴史の変化の兆しが、小さな形でも見えてくる年になると思いますので、皆さまお元気でそれぞれの分野でご活躍いただけるように心からお祈り申し上げます。



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