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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2017年11月

卓話『2020年のインバウンドによる食の動向』平成29年11月13日

服部幸應様

服部栄養専門学校 理事長・校長 服部 幸應様

2020年といえばオリンピックがやってまいります。私は6年前に国からロンドンオリンピックのパーティの協力を依頼されまして、視察の為に現地に行きました。そして分かったことは、ロンドンオリンピックからオリンピックが主催される国に関してはレガシー(社会的遺産)が必要です。そしてオリンピックレガシーのひとつはオーガニック(有機食材)ですよと言われたのです。その時に農水省の方に日本のオーガニック食材の市場の割合がどれくらいあるか聞くと0.8パーセントであると言われました。この5年間で0.8パーセントから2.7パーセントぐらいまで持ってきたのですけど、それでは足りないのです。

2020年の東京オリンピックの2か月間で1500万食必要です。もっと大事なことはもう既にホストタウンというのが出来上がっておりまして、北海道から沖縄まで47都道府県にいろいろな国、200ヶ国ぐらいが場所を借りて練習するのです。そこの場所も出来ればオーガニックもしくはそれに近いものを用意しろと言うのですよ。これは困ってしまったなと思いました。実際答えが出たのが今年の3月末だったのですけれども、まずGAPありきということになったのです。GAPは”Good Agricultural Practice” 農業生産工程管理という意味でドイツが始めた農法でして、まず農薬も一部使えるのですが使用の記録をするなど、必ず管理しなければならないのです。これは大変だなと思ったのですけれども、これを乗り切らないと、日本にオリンピックはやって来ないということになるのですね。今グローバルでやっているGAPは1パーセントしかありません。これを少なくとも7~8パーセントまで持って行かないと1500万食にならない。ですからその辺を今から頑張ってもらおうということで現在動いています。ただ2020年が終わった後が本当のレガシーとしての生き方が問われるのではないかと思います。是非GAPに関心を持っていただきたいなと思っています。

私が食育をどうしてもやりたいと思った理由は1962年に出版された、レイチェル・カーソンという女性の生物学者が書いた『沈黙の春』というアメリカのベストセラーなのです。食物連鎖の話なのですが、これを読んだ時にすごく感銘を受けました。カリフォルニアにクレア湖という湖がありまして、夏になるとボート遊びが盛んです。ところが1957年の夏にカイツブリという渡り鳥が飛んできて、一週間もしないうちにバタバタと死んでしまいました。レイチェル・カーソンは生物学者ですからそこに呼ばれまして、解剖します。肝臓とか筋肉の中から出てきたのがDDTという農薬です。

1945年ごろ湖にブヨという虫が大量発生したので7000分の1に希釈したDDTを撒きました。そうすると5年間は虫が死んで出てこなくなりました。ところが6年目からまた出てくるようになったものですから、また撒くのですけれども、耐性が出来てしまって効かなくなってしまいました。じゃあもう少し濃くしようということで5000分の1に少し濃縮したものを撒きました。そうすると1年半くらいはもったのですけれど、それ以上はもたない。だけどそれ以上濃くしたらまずいということで、だいたい1年毎ぐらいにDDTを撒いたのです。そして1957年の夏にカイツブリが大量死した頃には10回近くDDTが撒かれた後でした。私はそれを見たとき食べ物は怖いなと思いました。

こういったことをなんとか抑えなければならない、安心安全、健康は食からということで、その為にこれは食べる方法を考えるべきだろうと思って私が提案したのが、食育という法律です。食の安心、安全は根本的な問題なので、日本はこれからも食に関してやはり、カイツブリにならないように見ていかないといけないなと思います。

よく持続可能な社会づくりなどと言われてサスティナビリティという言葉が使われていますけれども、まさにサスティナブルな世界を畑にも、海にも、そして酪農関係にも進めていかないと、我々は食べるものが本当に無くなってしまうなと思っています。GAP対応出来れば輸出もできるのです。グローバルGAPは、世界に通じるトレーサビリティのある食材の構築の仕方ですので、これを我々はちゃんと守っていけるようなそういう社会にしていきたいなと思っております。

もうひとつお伝えしたいのは、そのきっかけとして食育というのはやっぱり安心安全。これを英語に直すと”Eating Education”食べ方の教育です。まずその時期が非常に重要なのです。私は世界中をまわる機会が多くて、いろんな家庭にも行きます。ところが、日本ほど家族構成が壊れた国は無いです。と言うのは、まずおじいちゃん、おばあちゃんが一緒に住んでいないお宅というのが増えてきました。今は驚いたことに80パーセントが核家族になってしまった。そうすると、誰が食べ方の教育、食べ方自体を教えてくれるのでしょうか。

実はオリンピックでメダルを獲っている人というのは幼児期までにスポーツを始めた人なのです。ピアノやバイオリンが上手い人、巨匠と言われる人は幼児期までにピアノやバイオリンを触った人なのです。白い布がありましたら、これを置いておくと水をかけるとすいすい吸ってくれます。生まれたときは白い布巾なのです。それがだんだんいろんなものを吸収してしまって、最終的には吸収ができない身体になってしまう。しかし幼児期というものは、今更戻れないわけです。ですから周りに幼児期のお子さんがいましたら是非今のうち、と教えてあげてください。

ということで、その一番大事な時期に我々は箸の持ち方とか、そういうものを家庭教育として教えなければならないのが崩れてしまった。これをなんとか日本では学校教育に入れようと思って教科書まで作ったのですけれど、文部科学省から時間がありませんと言われてしまいました。これから時間をとってもらえるような、そういう体制をこれから改めて作っていければと今思っております。

ありがとうございました。

卓話『トランプ政権と日本』平成29年11月 6日

ジェラルド・カーティス様

コロンビア大学 名誉教授 ジェラルド・カーティス様

今回のトランプのアジア歴訪について、日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンを回りますが、これは非常に重要な旅であるというのは主に2つの課題が中心になっているからです。ひとつは、北朝鮮の核兵器開発に対してどうすれば良いのかという事と、あとは貿易問題です。トランプが大統領になってからいろんな意味でアメリカの外交、政策も変わってきましたけれども、日米関係が非常に重要であるとういうことだけは継続性があります。ひとつ考えていただきたいのは、なぜヨーロッパの同盟国と違って、日本の総理大臣が一切トランプと意見の相違があるという事を言わず、なんでこんなに仲良く出来るのかという事です。

確かに安倍さんはトランプに対しての対応は見事だと私は思います。上手にトランプに対して信用されるように、努力した成果があったと。今まで16回も電話会談をしているのです。ただ私は安倍さんだからこうなっているとは思わない。安倍さんほどうまくやったかわかりませんが、日本の誰が総理大臣であっても日本の国益から見れば何よりもアメリカと仲良くしなければならないという致命的な現実があるということを、戦後の日本の総理大臣は皆思ってきました。

ドイツのメルケル首相、イギリスのメイ首相、カナダのトルドー首相、皆トランプに対して貿易問題とかNAFTA、NATOの事などで批判的なことを言っていますが、日本は思っていても一切言わない。TPPを離脱したのは良くないと思っても、直接トランプに対して文句を言わない。どうしてこういうことがあるかというと、ひとつは日本の地政学的な影響があると思います。ドイツにしてもイギリスにしても、フランス、イタリアにしても周りの国々は全部民主主義国で資本主義経済です。イギリスがEUから離脱しても共有する価値観のコミュニティの中にあるわけです。しかし日本の周りの国々は北朝鮮、ロシア、中国、民主主義国でなければ、資本主義国でもない。3か国全部が核兵器を持っている。周りで民主主義国であるのは韓国だけれども、韓国と日本の関係は歴史問題がいろいろあって難しい。日本が仲間と言えるのは、アメリカであるという現実。これは日本とヨーロッパ諸国の基本的な違いです。

この訪日は、北朝鮮について2人が全く同じ考え方であるということを、まず金正恩に見せる。貿易問題ではアメリカはFTAの交渉をしたいと言っているのですが、あまり強く圧力を掛けていませんし、今のところ日本とアメリカの2か国間に大きな問題があると思いません。

一番皆さんが、心配なさっているのは北朝鮮に対してどうするかという事だと思います。私も戦争は無いだろうと思いますが、絶対に無いとは言いきれません。

私自身はトランプがやろうとしているように、北朝鮮に対して制裁を出来るだけ強くした方がいいと思います。今北朝鮮の貿易の80%が中国ですので、中国が制裁に協力しなかったら効き目がありません。前よりだいぶ協力しているのですが、例えば北朝鮮への石油の輸出を完全に止めるということは出来ないし、現実的に考えればいくら制裁をかけても北朝鮮は、ほぼ間違いなく核兵器開発、ミサイル開発を辞めないでしょうし、核兵器を放棄するということは非常に考えにくいです。

我々にはどういう選択肢があるかというと、ひとつは北朝鮮が核兵器を持ってもしょうがないと、一応核保有国であることを認めるということです。しかしそれを選択したら、韓国は核武装するでしょうし、日本は核武装するかわかりませんけれども、少なくとも核武装すべきではないかという議論になる。台湾が持つ可能性も出る。要するに核拡散になりますし、北朝鮮を核保有国として認めるということは、やってはいけない事だと言っていいと思います。

じゃあ北朝鮮と核兵器を放棄するように交渉してみたらどうか。どちらかといえば韓国はそういう立場ですね。ただ問題は2つあります。ひとつは北朝鮮が一切話し合うつもりがないと言っているのです。もうひとつアメリカで一番言われているのは、もう20年以上前から核兵器の開発をやめさせようと交渉していたら、その間に北朝鮮はますます核兵器を開発してミサイルも開発した。だから2度と騙されない。それがトランプの立場なのです。では残っている選択は何があるかというと、それは軍事力で北朝鮮の核兵器開発を止めさせることなのですね。”all options are on the table”(すべての選択肢がある)これはトランプ政権で始まった表現ではなく、ブッシュの時代からそう言っているのですが、要するに軍事的なオプションもあるのだと言っているのです。しかし本当に北朝鮮を核兵器の施設などを潰すために攻撃して戦争をやったら、アメリカの本土は攻撃されないけれども、日本か韓国はものすごく大きな被害がでます。ですからそれも出来ない。やってはいけないのです。

この北朝鮮の問題を冷静に考えて、この国は核保有国であること認めてはいけませんけれども、この国から核をなくすという事は当分できない。北朝鮮との話し合いをしながら、まずこれ以上開発しないこと、これ以上実験をしないこと、その交渉をそろそろやらないといけないと思う。それで時間をかけてその核兵器の能力を縮小して、最後には一番必要なのはregime change(体制転換)、この政権が変わらない限り韓国にとっても、日本にとっても、アメリカにとっても、この国の危険性は消えない。ですから中国の習近平とトランプの会談ときに話してもらいたいなと思うのは、どういう風にしてこの北朝鮮の政権が代わって、北と南が別々の国家として平和的に付き合えるかという新しい発想が必要であるのです。ありがとうございました。



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