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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2016年6月

卓話 『日本外交の原点と未来 -対韓、中、米、露関係のキーワードを基に考える-』平成28年6月20日

小倉 和夫様

日本財団パラリンピックサポートセンター理事長
小倉 和夫様

今、日本の大きな問題の一つは北朝鮮です。日本と朝鮮半島の第二次大戦後の原点である1965年の日韓交渉では、北朝鮮をどうするかが大きな問題でした。その年に結んだ日韓基本条約は、朝鮮半島において合法と認められた唯一の政府は大韓民国政府だと言っているのですが、韓国文では朝鮮半島全体の唯一の代表たる政府といっている。実はここがミソで、日本文と韓国文は意味が違います。なぜ日本がこの部分で頑張ったかというと北朝鮮と日本が話合うチャンスを残すことが日本の基本の態度だったからです。

平壌に行った人の話によると中朝の国境には民営のマンションが建ち並び、北朝鮮の社会は大きく変わっているというのですが、その実態はほとんど日本のマスコミに伝わらない。この話をするのは、将来、北朝鮮との話合いをどうやっていくかは非常に大事なことだと思うからなのですが、北朝鮮の実態の報道がされないのは問題だと思います。

日韓の間には相変わらず歴史問題があります。日本が常に韓国から過去の問題で認識を問われるのは、国民感情の問題というより、日本に対する政治的な踏み絵だと思います。なぜか。それを解くカギは儒教です。儒教は韓国国民に深くしみ込んでいます。韓国人はときどき皮肉に、我々は中国に200回以上侵略されたと言います。そういう国が誇りを持ち続けるのに何が大事か。それには精神しかない。それで、ある段階では韓国は儒教精神においては中国よりも上だと考えていました。清というのは満州族ですから、明の後に清が来たとき、韓国は儒教の正統な伝承者は自分だと言ってはばからなかった。精神的な空間として自分を考える。ここが大事です。そう考えたとき歴史認識が大きな意味を持ちます。日本に対し常に過去の問題への認識を問うのは、韓国の人々のそういう国家感についての哲学が反映していると思うわけです。

ややこしいのは中国です。日本と中国と台湾の関係は、日本からすると交際相手を台湾から中国に変えたということです。中国は台湾は中国の一部であると言う。日本はその中国の立場を理解するとしつつ、台湾が中国の一部だと認めているわけではありません。それを認めてしまうと台湾問題で紛争が起きても国内問題になってしまうので、国際問題としておく必要があるからです。

もう一つは過去の問題です。歴史問題について出された日中間の談話で注意すべきは、中国に対する日本の謝罪は、国に対してではなく国民に対して行われていることです。なぜ国と国民を分けるかというと1972年の国交正常化のとき中国で反対論が渦巻きました。私の両親は日本軍に殺された、南京虐殺もあったという声が中国全土に広がった。そのとき毛沢東、周恩来は党の幹部を全国に派遣して、悪かったのは日本の軍国主義者で日本国民ではない、日中国民はともに戦争の犠牲者であるとしたのです。それで国交正常化ができた。ですから靖国神社の問題で中国がうるさく言うのは、軍国主義者と国民を分ける根本が揺るがされると日中国交正常化の原点が揺らぐと考えるからです。

ありがとうございました。

卓話 『気候変動リスクと人類の選択~IPCC AR5からパリ協定へ』平成28年6月6日

江守 正多様

国立研究開発法人国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長
江守 正多様

地球は太陽からエネルギーをもらい、その約7割を吸収します。一方、地球は宇宙に向かって赤外線の形でエネルギーを放出していて、エネルギーの吸収と放出は大体つりあっています。もし温室効果がないと地球の表面温度は-19度ぐらいなのですが、実際には元々大気中にあるCO2などの温室効果ガスが地面から出た赤外線を吸収し、逆に地面に向かって放出しています。地面から見るとその分多くのエネルギーをもらうので、その結果、地表付近は14~15度になって、この状態で過去1万年ぐらい安定していました。現在はこの温室効果ガスが人間活動で増えたので温度が上がっている。これが温暖化の仕組みです。

IPCC、気候変動に関する政府間パネルという国連の組織によると、大気中のCO2濃度は1960年頃から明らかに増えています。人間がエネルギーを得るために化石燃料を燃やして排出されるCO2は海や植物が一部を吸収しますが、約半分は大気中に貯まり、その結果、世界の平均気温は150年で1度弱上昇し、海面水位も1900年より約20㎝上昇しています。海の氷が解けても海面は上昇しませんが、陸上の氷が解けて海水が増えるのと、海水が暖まって膨張することで海面が上昇するわけです。

この温暖化を止めようというので昨年末にパリでコップ21という国連の会議が開かれパリ協定が決まりました。協定の目標は、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く保つとともに1.5度に押さえる努力を追求するというものです。

将来の世界の平均気温は対策をしなかった場合、今世紀末には4度ぐらい上がってしまいます。しかし温室効果ガスの排出を抑制すれば2度以内に収められる。世界には温暖化で深刻な影響を受ける人たちがいて、海面上昇で沈んでしまう恐れのある島国や旱魃で飢饉におちいる恐れのあるアフリカの最貧国のことを考えると、温暖化はなるべく低く抑えたいところです。

パリ協定では今世紀後半に人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を達成するとあります。植林などで吸収する分を除いて温室効果ガスを出さない状態を今世紀中に作るということです。これは新たな文明と言えるかもしれません。すでに我々はCO2を出さずにエネルギーを作ることができる。再生可能エネルギーを100%にして社会を維持・発展させるには、省エネや再生可能エネルギーの安定利用のための技術開発、原子力の利用に関する議論、代替エネルギーの利用、森林減少の抑制等々、様々な対策が必要です。

この問題、途方もない課題のように見えますが希望はあります。実は世界のCO2排出量は過去2年増加が止まっていて、背景には再生可能エネルギー利用の増加があると思われます。

京都議定書のとき、この問題はほかの国に負担を押し付けあう競争でしたが、パリの会議では、その流れの中でどう自国の利益を得るかという競争、つまり自国の再生可能エネルギー技術を世界に普及させ、ルールを自分たちに有利に設定するという競争になっています。

是非、この人類の文明史上の大きな事件に我々が携わっているという認識をお持ちいただければと思います。

ありがとうございました。



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