東京六本木ロータリークラブ




卓話

2015年12月

卓話 『国連で苦しかったこと』2015年12月14日

波多野 敬雄様

尚友倶楽部理事長・元国連大使
波多野 敬雄様

最近、日本の新聞を読んでいて感じるのは国際問題の報道が極めて少ないことです。1面に国際問題が載ることはほとんどない。外国の一流紙は必ず1面の半分は外国の問題です。それで日本はちょっと国際性が劣ってしまい、その結果、世界の常識が必ずしも日本の常識にならない。今日はその問題で二つお話しします。

一つは人命尊重の問題です。私が国連に赴任して間もなく、イラクがクウェートに侵入して国連の安全保障理事会がそれを非難し、制裁することになりました。日本は最初30億ドル出しました。額はそれほど少なくはなかったんですが、世界中から、日本は中東からあれだけ石油を輸入しているのにという批判が出て、最終的には130億ドル出したんですが、それでも批判は収まらない。結局お金だけじゃやっぱり批判されてしまうということでPKO法を作り、カンボジアの紛争には延1000名の自衛隊を出しました。

私が国連で一所懸命やった問題は、安全保障理事会の常任理事国に日本がなりたいという話です。国連というのは要するに安全保障理事会なんです。すべての問題が安全保障理事会にかかっちゃう。そこでは5大国の常任理事国が拒否権を持っていて、自分の国に都合のいいようにしてしまうので、常任理事国になるのは極めて重要な話なんです。そういう中でイギリスの大使が、日本の常任理事国入りを支持する用意があると言ってくれました。日本は当時20%の国連分担金を出し、湾岸紛争でも130億ドル出した。イギリスはそれを大変評価しているというのです。ただ日本の新聞を見ると半分は常任理事国入り賛成だが、あとの半分は必ずしも賛成でないようだと指摘されました。私、日本に帰ってその話をしましたけれど、一番拗れたのは自民党の小泉派です。その派閥の人が、日本は常任理事国になる必要はないと言うんですね。日本という国は自衛隊員が数名死んだら内閣が倒れちゃう。そういう国なんだから、それを知った上で外交をやってもらわなきゃ困るというんです。結局日本はお金だけで処理しようとしている。人命の犠牲をあくまで避ける国は大国ではないというのが、ヨーロッパの国に与えている印象だと思います。

もう一つは難民問題です。先進国で日本ほど難民を嫌がる国はありません。サミュエル・ハンチントンというハーバードの学者が25年前に書いた本の中で、将来はイスラム教と先進社会の衝突が起きるだろうと書いています。もう一つは21世紀の最大の課題は移民・難民問題だというのです。既にその問題がヨーロッパで起きています。私には、日本は難民問題は他人事で、援助のお金を出せばいいと思っているように見えます。難民問題は現地に収容所を作ってお金を出すだけじゃ追いつかない。そういう人たちはどんどん北半球に押し寄せちゃうよというのがハンチントンが指摘した課題です。日本もその問題にこれから直面するのではないかと危惧しています。

ありがとうございました。



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