東京六本木ロータリークラブ




卓話

2015年1月

卓話『和食の底力』2015年1月26日

卓話 『和食の底力』
発酵学者・食文化論者
東京農業大学名誉教授(農学博士)
小泉 武夫 様

小泉 武夫 様

 こんにちは。今日は和食の素晴らしさをお話しします。

 私は国立民族学博物館で「食と民族」という研究をやってきましたけど、かつて低蛋白低脂肪低カロリーだった日本人の食が、この50年で全く逆転してしまいました。それによって起こった問題の一つは、日本は世界で一番国民一人当たりの医療費がかかっていることです。医療費のうちで多いのは生活習慣病で、肺がんとか心臓病、大腸がん、直腸がんなどが圧倒的に多くなりました。

 一つ象徴的なことは、全国の平均寿命ランキングで、あの長寿県だった沖縄が、たった7年で男性が30位、女性が4位にまで落ちたことです。原因は食生活の激変です。沖縄はアメリカに統治されて約30年、それまでそんなに肉を食べなかったのに、とにかく肉を食べる民族になりました。現在、沖縄は一人当たりの肉の消費量が全国トップ。逆に野菜の消費量は最下位です。沖縄の平均寿命がこんなに急激に下がったのは、若い人が亡くなっているということです。そのほとんどの原因が直腸や大腸のがんです。

 どうして我々は和食を食べなきゃならないか。その理由は遺伝子です。日本人が長い間食べてきた食物を食べることで、それが体によいこととして適応するように遺伝子ができているわけです。例えば和食は7つの主材しか食ってません。ごぼうや人参などの根系、白菜などの菜っ葉、トマトやキュウリなどの青果、自然界の山菜やキノコ、大豆などの豆、海苔やヒジキなどの海藻、米や麦などの穀物です。これらはみんな植物です。そこに急激に肉だなんだといっぱい入ってきたから、体がおかしくなっている。

 日本の場合、一番理想的なのはすき焼きで、肉は少なくて具はいっぱいで、日本人の肉の食べ方として最高です。どうして肉を食べるときに野菜を食べなきゃならないかというと、肉ばかり食べていると肉の好きな菌が腸にはびこってしまうんです。すると体の中に肉アミノ酸(RNH2)が増えるんですが、肉の好きな菌は酸化する力が強くてRNH2をRNO2に変えてしまいます。これ発がん性物質で、それで直腸や大腸のがんが増えるというメカニズムです。ところがそこで野菜を食べると野菜の繊維が発がん物質にする菌を吸着して排出してしまうんですね。

 いま一つ困ったことは心の問題です。昭和37~8年頃、全国にスーパーマーケットができて日本人の食生活が変わり、和食の摂取率が減るに従って子供や大人の暴力事件が増えています。原因はミネラルの不足です。和食の7つの食材はみんなミネラル補給物で、和食を食べなくなるとミネラルが少なくなる。するとアドレナリンが分泌しやすくなって怒りやすくなるんですね。ミネラルが体の中にたくさんあれば、アドレナリンを副腎で抑えてくれる。だから和食を食べていたとき、日本人は温厚な民族だったんですね。

 我々は次の世代のためにも和食を継承していかなければいけないと思います。ご清聴ありがとうございました。



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