卓話
2014年11月
卓話『私たちの認知症~日本とスウェーデンの事情』2014年11月17日
株式会社舞浜倶楽部
代表取締役
グスタフ・ストランデル 様
皆さん、こんにちは。僕が日本に来た時、介護業界の大きな動きは介護保険の準備でした。日本で最初に認知症の問題を研究したのは京都大学の外山義(ただし)先生で、彼は認知症の患者が地域でどうやって暮らすかという、とても深い本を書きました。出版されて四半世紀ですが、今読んでも大丈夫。それぐらい先駆的です。私も15年間、日本全国の介護の現場を見学してきました。そのゴールの一つが今、私がやっている会社、舞浜クラブです。
スウェーデンの老人ホームはバルブロ・ベック・フリスという女医さんが80年代に世界で初めてグループホームを提唱してから非常に変わりました。認知症でも地域で暮らせる。そのための環境とケア、家族のサポート、地域のサポートがあれば、隠れて住まなくてもいいという運動が始まったんです。そこではまず個室ができました。夫婦部屋もあります。これは当時までは考えられなかったんですが、今はごく普通です。そこで暮らしている方々は、今までの生活空間と生活時間をそのまま持ってきていて、多くの地域の方々が遊びに来ています。あそこに行けばおいしいコーヒーが飲める、友達と会える。老人ホームは遊びに行ける場所なんだということです。認知症でも、自分にもほかの人にも意味のある人生であること、自分の役割があることが大事だと思います。
人格の尊厳が一番問われるのは元気の時じゃないんです。認知症になっても普通の日常生活を送ることができるのが本当の意味の人格の尊厳だと思います。私の施設に入ったあるご老人は、入居した時、俺はもう死んでもいいんだとおっしゃっていました。それで食事をミキサー食からなるべく普通の食事にするようにし、排泄も一日のトイレのパターンを把握してなるべくおむつを使わずに済ませ、歩行も本人に合った補助用具を使って移動できるようにしたところ、家族との関係も改善して、最後には孫の花嫁姿を見るまで長生きするんだと言うまでになりました。緩和ケア理念は哲学に近くて、人間は身体的、精神的、社会的、生存的な4つの側面を満たさなきゃいけないと言われています。まさにこの方の場合がこれに当たると思います。
私の施設では遊びに来てもらえる施設を目指して地域とのつながりを積極的にしていて、祭のときは必ず地域のNPO法人などを誘います。行政とも共同提案事業という形で家族支援、地域支援、事業所支援を一緒にやっています。目的は地域の理解、協力関係を作るということです。
認知症は早期発見が重要です。そうすれば日常生活は守れるんです。つい最近まで徘徊とかの問題が言われましたが、これは原因があって、原因を理解すればほとんどの症状は緩和できます。うちの施設は毎月、多いときは毎週、アジア各国から見学者が来ています。日本がどのように対応しているかをアジアの国は見ています。いいものを見せしましょう。
ありがとうございました。