「楽しく一緒に気分よく」

国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2017年5月

卓話『子育てから見える子どもの成長』平成29年5月29日

高柳 信夫様

東京女学館小学校前副校長 社会福祉法人窓愛園 監事 高柳 信夫様

東京女学館小学校は1888(明治21)年にできましたが、当初は応募者が一人もなく、昭和4年、渋沢栄一先生が館長になられて東京府から許可をいただき、今年で88年目になります。当初の教育目標は良妻賢母の育成でしたが、今は「高い品性を備え人と社会に貢献する女性の育成」となりました。小学校では日本の伝統文化についての授業を展開し、同時にグローバル社会への対応として英語力を育て、3つ目はアクティブラーニングを、つまり何を教えたかではなく何を学んだかということに重点を置いて実施しています。

私が在籍していた44年間を顧みると子供を感動させることがどれだけできたかという点が気になります。感動とは人間が内側から変わろうとするエネルギーですから、それを外側から刺激するのは中々できないのですが、あの時の先生の一言で自分が変わったというようなことを40~50代になった生徒が私に言ってくれるのは大変うれしいことです。

今、第三の教育改革が叫ばれています。最初の改革は明治の近代化。第二はアメリカ教育使節団による改革。そして第三は日本の伝統文化の価値を創造的に発見し再評価することです。開かれたナショナリズムを取り戻し日本人としてのアイデンティティの確立を目指します。今度オリンピックがあります。そこで日本人って何、日本って何と他国の人から問われてパッと答えられるかというと、今の日本の教育ではなかなか難しい。でもいいものが沢山あるわけですね。それを今まで教育の中で活用してこなかったのですが、来年か再来年、道徳が教科として入ってきますので、その中で自分の国のことを伝統文化も含めて答えられるようにしていかなくてはいけないと思います。

教育とは教え育てると書きます。でも教えるだけでなく育てることが必要。そして指導とは指示して導くと書きます。子どもに目標を持たせ導いてやるのが教師の役目だと思います。現在は各教科の成績だけで人間を評価してしまう傾向があり、また個性尊重の結果、我について学ぶ機会が貧弱でもあります。そこで自分とは何か、生きるとは何かを教え、考えさせることが急務だと思います。

江戸しぐさに「三つ心、六つ躾(しつけ)、九つ言葉で十二文(ふみ)、十五理(ことわり)で末決まる」という言葉があります。三つ心とは3歳までは言葉は分からないけれど愛情たっぷりに育てること。六つ躾とは子どもは親の後姿を見て育ちますから、親が自ら見本を示すべきだということ。九つ言葉とはあいさつや世辞で、他人と気持ちを繋ぐための言葉。十二文は12歳までにきちんと中身を伝えられる文章を書けること。十五理とは例えば太陽は東から上がって西に沈むという理屈をきちんと頭の中に入れるという意味です。江戸時代、親が短命だったので、子供にたくさんの生きる力、知恵を与えようと必死で教えたのだと思います。

ありがとうございました。

卓話『人生を面白くする本物の教養』平成29年5月22日

出口 治明様

ライフネット生命㈱ 代表取締役会長 出口 治明様

僕の友人に英語はあまりできないと言う学者がいて、世界プラトン協会の会長をやっていたというんですね。英語ができないのに会長ができるのかと聞いたら、その協会メンバーは全部プラトンをギリシャ語で読むから話は通じるんだと。英語ができないのは冗談だと思いますが、教養とは何かと考えたら、僕は共通テクストの数だと思います。人と人とのコミュニケーションは共通テクストが多いほど容易になる。そう考えたらわかり易い。

人間は見たいものしか見ないとカエサルが言ったのはもう2千年以上前ですが、脳がそういう癖を持っているなら周囲をちゃんと見るための方法が必要です。その方法の一つが縦横です。例えば僕は、源頼朝は平(北条)政子と結婚して鎌倉幕府を開いたと習いました。素直に考えれば日本の伝統は夫婦別姓ですね。一方、OECD35か国中、法律婚の条件で同姓を強制しているのは日本だけ。縦横にこうした事実を見れば、夫婦別姓は日本の伝統に合わないとか言っている人たちはイデオロギーや思い込みが強い人だということが分かる。もう一つは出来るだけ数字に直してみることです。この前みんなで飲んだとき、ベルギー人はたくさんビールを飲むという話になって、一人当たりの消費量を調べたら大したことなくて、1位はチェコでした。今はスマホがありますから辞書を引くような気持でデータをチェックすれば世界はより見やすくなります。

日本は高齢化が進んでいて毎年予算ベースで5千億円以上が介護や医療等で出ていきます。我々の選択肢は、みんなで貧しくなるか、その5千億円をGDPを成長させて取り戻す以外にないのです。GDPは人口×生産性で人口は簡単には増えませんから、生産性を上げるしかない。でもそのために長時間働くというのは、テレビを作るような工場モデルの時代だったらともかく、創意工夫やアイデアを大事にするサービス産業の時代では駄目なんです。創意工夫やアイデアは、たくさんの人に会い、本を読み、現場に行って脳みそに刺激をもらって初めてでてくる。これが島崎藤村のいう「三智」で、僕流に言えば「人、本、旅」です。

もう一つはヨーロッパのほとんどの国で採用しているクォーター制。企業役員などに占める女性の割合をあらかじめ一定に定めて女性を積極的に起用する制度です。経済がサービス産業化した現在、そのユーザーの6~7割は女性ですから、生産サイドにも女性を置かなければいいサービスもアイデアも出ません。長時間労働をやめて男性も家事育児介護をシェアし、女性に頑張ってもらえる社会を創らなければこの国の未来はないと思います。

ココ・シャネルが功成り名を遂げた後に次のように言っています。私のように大学を出ていなくても、まだ1日に一つぐらい道端に咲く草花の名前を覚えることができる。1日に一つ分かれば世界の謎が一つ解け、世界が毎日1つずつシンプルになっていくと。教養とはシャネルのようなスタンスをいうんじゃないかと思います。

ありがとうございました。

卓話『能の海外公演』平成29年5月8日

坂井 音重様

能楽師 白翔會 主宰 坂井 音重様

能の先行芸術は民族の生活とか、その習俗。例えば神様に幸せをもたらすために舞ったりするもの。中でも有名なのは巫女さんの舞ですね。5世紀に入ると唐と日本の交流がある。その中で5世紀に催馬楽という芸能があり、平安貴族が歌を歌いながら音楽を奏でつつ鎌倉末期まで延々と続いていた。また、生活の中の「普遍的なもの」、「人々の心に感銘するもの」として農民は田植えのとき歌を歌いながら豊作を願い「田楽」を奏でる。室町時代に「日本の芸術の精粋」となって文化が集約される。そういう総合された文化の中で作られた演劇が「人々の心に寄り添い、訴える芸能」すなわち「能楽」です。

能ができたのは室町時代。観阿弥が生まれたのが1333年で、観阿弥、世阿弥の親子がこれを集約しました。当時、各地にそのような劇団がいっぱいあったのです。室町幕府の時、公家の文化と武士の文化を足利義満によって磨き上げられ、今日に至っている。能楽や香道、茶道、華道です。安土桃山時代は信長、秀吉の時代です。この時代も武将が盛んに前から伝わる室町文化の尊さを磨き上げていきます。1番の能は1時間以上はかかるのですけれど、太閤秀吉は5番近く自分が「シテ(主役)」を演じているのですね。秀吉はそれによって自分の聡明さと権威、そして為政者としての価値観を皆に示す。江戸時代には幕府が能を「式楽」として位置付ける。国が認定する正式な舞台芸術だと指定する。ですから江戸幕府は各藩それぞれ、その石高に応じて能装束、能楽者をそろえておくべきとしました。

次のターニングポイントが明治維新です。そのときには廃仏毀釈に代表されるように日本の文化が全部否定されました。お寺さんもなくなり、文明開化のあおりを受け、今まで継承されてきた能、茶道等々が衰退する。これが見直され復興したのが岩倉具視が欧州を視察した時で、帰国後、日本の伝統文化を継承しなくてはいけないということになりました。外国にはオペラや歌劇場があるではないかと。能は600年の歴史を持っています。シェイクスピアは400年、バッハは300年ぐらいでしょうか。自国の大切なものは自国でちゃんと認識しなきゃいけないというところから能が復興した経過があります。

能で今でも演じられる曲は5つに分類されます。では、これからよく知られている演目を映像でご覧にかけ、説明しましょう。その最初が「高砂」。これは夫婦がいつまでも変わらぬ愛情を表す相生の松の物語と、和歌の神「住吉明神」との慶祝の曲です。2番目の「屋島」。前半は義経の魂が老人の姿で現れ、戦の様子を語ります。後半には義経その人が武人の勇壮な舞を演ずるのです。能は大体、前半は亡霊、後半は実存の人が現れることが多いのです。3番目の「井筒」は、愛は永久であるという伊勢物語の物語。4番目は隅田川。これは能の中でも特に有名な演目で、都からさらわれた子供を探し求め、隅田川で亡くなった我が子の亡骸に出会います。

最後は有名な、能面をかけずに緊迫感の舞台展開を見せる「安宅」です。面をかけない事を「直面(ひためん)」と云います。ご存知のとおり頼朝に追われ、秀衡を頼んで下る義経。弁慶と関守である富樫の物語。弁慶が読めと言われて何も書いていない勧進帳を読むことで関所を抜け、義経一行は陸奥へ向かうことが出来たのです。

芸術は「人の心から心へ」通じ合うもの、それがやがて「国と国」の理解に通じ合う。能の価値観は救い。救済でもって結ばれるという事です。過去には素晴らしい作品がありました。でも気を抜くと駄目になります。それが正しく継承されるために大切なのは、未来に結びつくこと。人間が持つ普遍の心の内だと思います。

2001年ユネスコの「世界無形遺産第1号」として、日本で唯一認定された「能楽」。2020年「東京五輪」が開催されます。五輪憲章にも文化が唱われてあるように、日本の文化力の価値観を大きく広く発信し、各国の人々の「幸」と「世界の平和」に大きく寄与せねばと思います。

これをもって本日の「お話し」とさせて頂きます。

ご清聴ありがとうございました。



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