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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2020年10月

卓話『英国のEU離脱』令和2年10月5日

前駐英大使 鶴岡 公二様

前駐英大使 鶴岡 公二様

英国はEC共同市場からはじまり、40年以上EUの一員として続いてきました。しかし国民投票で、英国の主権が侵されているのではないかという議論があり、52%が離脱、48%が残留という僅差でしたが、最終的に離脱が多数であったということで、離脱の最終実現に向けて動いています。

感情が理性を上回る、主権侵害であるという訴えは、どこの国でも大きな力を持ちます。他方経済で見ると、英国は大きな市場である欧州に依存しており、貿易額の50%以上が欧州とのやり取りです。キャメロン政権は10年程続いてきましたが、キャメロン首相と財務大臣であったオズボーンは、英国経済の健全化のために緊縮財政を維持してきました。保健衛生や医療関係、治安など、予算的に相当厳しい対応であったため、中産階級以下の人たちは不満を持っていました。その社会的効果とも相まって国民全体に不満が蔓延し、格差の拡大がSNSの発展を通じてよく見えるようになりました。また主要都市と地方の格差の拡大は、英国全土にわたってキャメロン政権に対する不満を大きくしていたとと思います。

EU離脱において、離脱を主張する側は、問題提起によって改革を進める声を上げることができます。一方で現状維持派は、今が一番だということを証明しなければなりません。残念ながら現状は必ずしも英国民全体にとって良いものとは見られていません。従って、離脱による主権の制限の回復、EUへの分担金も必要ない、このようなことが利点として示された時に、残留の理由を説得力を持って議論することができませんでした。政治的にも、英国の保守党の中で離脱と残留について見解が分かれており、キャメロン内閣自体が残留を内閣の方針として示すことができませんでした。

通常英国というと、まとまった一つの国であるかのように思われますが、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから成り立つ連合王国です。国民投票では、85%の人口を占めているイングランドと5%のウェールズが離脱を選択しました。スコットランドと北アイルランドはかなりの多数を持って残留を選択していますが、人口比で国全体としては離脱となりました。

スコットランドは2014年に独立の住民投票を実施しております。これは55対45で否決され連合王国の一員として残っていますが、当時キャメロン首相は、スコットランドが連合王国から離脱すれば、すなわちEUからの離脱をも意味し、経済的に立ち行かなくなると強く反対しました。ところが今回の国民投票で離脱となったことで、スコットランドでは英国がEUから離脱することについて強い反対意見があります。現在は保守党が議会で圧倒的優勢なので独立住民投票を実施できませんが、2020年8月の世論調査では、スコットランドの住民は53対47で独立すべしと言っています。

また北アイルランドは和平合意が成立していますが、カトリック人口が増えています。もし将来住民投票をすれば、離脱、またアイルランド共和国への合併は排除しきれないと思います。スコットランドと北アイルランドの動向如何では、今我々が知っている連合王国が、構成員の異なる国になる可能性は排除できないと思います。

英国の首相はだいたい10年程務めますが、私が英国にいた3年半で同じ保守党から3人もの首相にお会いしました。保守党には、EU問題や、あるいは欧州に対する見方に対して一致した見解がありませんでした。キャメロン首相は国民投票で敗北を喫し、あとを継いだテレサ・メイは挙党一致内閣で国民投票の結果を実施しようと、有力な政治家を全員内閣の中に取り込みました。のちの首相になるボリス・ジョンソンもその一人です。その結果内閣はEU離脱を巡り混迷し、離脱協定への国会承認も取れずメイは辞任しました。保守党党首になったボリス・ジョンソンは、総選挙を実施し、国民投票から3年が経ってもなおEU離脱を実現できていないことに対し、「Get Brexit Done さっさと離脱しよう」という公約を掲げました。イギリスの国民は決定する政治を好む為、先が見えないことに対して非常に苛立ちを感じており、決定する政治を実現すると約束したジョンソンが大勝しました。

ジョンソンはかつてのメイ政権の苦労をよく見ておりましたので、自分に従う候補、自分に反対しない候補という公認条件を明確に示しました。その結果、有力な政治家が何人も公認されず、党は統一され、議会に持ち込む法案や予算が容易に承認されるという安定した基盤ができたわけであります。

今、英国とEUの交渉は膠着状態であります。予定では来年1月1日に新しい協定が発効し、英国とEUは新しい関係にはいります。しかしながら将来協定の交渉では、EUは政府補助や政府関与に厳しく、EU基準の維持を求めています。それを英国が受け入れると離脱した意味が半分はなくなってしまいます。EU側からすると、英国が国庫補助をどんどん出しながらEUの産業を脅かせば、EU経済は甚大なる打撃を受けかねません。漁業も難航しています。現在は英国海域の漁業はEU管理のもとで行われていますが、英国の200海里の経済水域は、離脱により英国の管轄下に入るため、EU漁船が漁業を行うためには、英国の許可が必要になります。将来協定の中で漁業につき合意しておこうとEUは求めていますが、英国は応じません。12月31日までは将来協定ができるまでの暫定的な期間として、事実上EUとの従来の関係が継続するという合意はありますので、発効するまでの暫定期間を延長することを合意すれば、合意なき離脱という最も恐ろしい結果は避けられるかもしれませんが現時点では延長は合意されておらず今後の見通しは立っていません。

日本からは1000社以上の日系企業が英国で活動しています。大使館は、日本企業が今後も円滑に活動できるように、EUとの合意を成立させるように英国側には繰り返し繰り返し働きかけをしてきました。EUの当局に対しても同様です。

日英間はそれに加えて日英の自由貿易協定を交渉し合意しました。、今後国会承認にかけ、12月31日までに発効させることを考えております。

このような大変な状況の中、コロナがきました。英国の死者数は既に4万2000人で感染者がさらに増える危機的な状況です。

日英はそれぞれが相手にとって重要な国ですので、それぞれを大切にし、日本としては英国情勢に注目しつつ、日英関係を発展させていきたいと考えております。

ご清聴ありがとうございました。



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