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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2020年3月

卓話『DX(Digital Transformation)時代の世界と日本』令和2年3月2日

公立大学法人 首都大学東京 理事長 島田 晴雄様

公立大学法人 首都大学東京 理事長 島田 晴雄様

この10年程、デジタルトランスフォーメーションということで、非常に大きな、技術的な、世界史的な、津波のような変化が起きていて、色々な国や経済活動、人々の生活をどんどん突き動かしています。そしてさらに加速しており、もう誰も無視できないということで、素人なりに問題提供をさせていただこうと思います。

デジタルトランスフォーメーションを一言で言えば、データの時代。データが力を持つ、“データ資本主義”です。コンピューターの計算能力が大変大きくなってきたわけです。今のスマートフォンの能力は、IBMがコンピューターを作っていた頃に比べると何十倍にもなります。そのような技術変化が起きると、今までの科学の方法論「サンプリングをして大きな理論体系から仮説を作り、実証分析をして、仮設が正しいかどうかを検証する」という必要がなくなります。個人の情報、ビッグデータからパターン分析、プロファイリングで精密にするというディープランニングのプロセスを経て出た結論のほうが、仮説検定より正確だということが明らかになりました。数年前からGoogleのAIが世界の碁の最高峰の方を打ち負かすような時代になりました。科学が変わったんですね。それを受けて、次の時代を作ろと頑張った天才的な人が何人もいるんですが、その人たちの情報、企業、ビジネスの展開と、世界史的な科学の方法論、データサイエンスの時代が合致して、ものすごい勢いで発達しました。

「ググる」という言い方がありますが、分からないことがあるとGoogleで調べます。Amazonで買い物をし、食事をするとInstagramにアップし、友達と繋がるのはFacebook。これらの会社を総称して「GAFA」と呼んでいましたが、最近は「FANNG」と言います。Facebook、Amazon、Apple、Google、そしてNetflixです。Netflixもビッグデータを使って、個人情報を全部集め、分析をして作った映画がアカデミー賞を取りました。このようなことが世界を支配している「FANNG」の時代になったということです。

Googleはものすごい計算装置を持っていて、個人情報を集積し分析することで、相手に合った情報を出すというシステムを世界中の企業に提供し、相当なお金を取っています。またクラウドの仕組みを最初に作った会社で、世界中に計算センターを持っていて、想像を超えるキャパシティです。

中国ではBaidu、Alibaba、Tencent、Huaweiという中国を代表するIT企業が育っていて、総称して「BATH」と呼ばれています。AlibabaはAmazon以上のキャパシティを持ち、Huaweiは12兆円もの売上があります。

意外に我々は、中国で大きな発展が起きているということを、これまで詳しく知りませんでした。20年前の中国は所得も低く、まだ驚異ではありませんでした。2005年の尖閣列島問題、そして日中関係の問題も含め、どうも日本の中で中国は嫌な国だというイメージが強くなり、中国から視野がずれ始めてしまったのではないかと思います。そのころから中国はものすごい勢いで脅威の情報化を始めました。国家戦略として、習近平政権では、新しい経営の運営の仕方を考えようと、量で稼ぐのではなく、質で経済を高める時代だということで大戦略を打ちました。その一番の根幹がイノベーション、情報化、インターネットプラスです。Alibaba、Huaweiをはじめ、Uberに勝った滴滴出行など、デジタルトランスフォーメーションをいち早く実現している企業が出てきている中で、むしろアメリカのほうが中国を研究しています。中国から距離を置いていた日本としては、超巨大な隣国を良い面でも悪い面でも良く知っておいたほうがいいと言えるでしょう。

2018年3月にトランプ大統領が関税をかけて、米中の貿易戦争が始まりました。しかしいつの間にか焦点がハイテク覇権戦争となり、事実上静かな戦争状態となっています。中国では1949年を最後に選挙が行われていません。国がうまくいっているから、習近平でいいじゃないかという考え方ですが、トランプ氏やアメリカから見ると許しがたい。これに対して、中国には3000年の文明史がある。250年前はアメリカなんてなかったじゃないかという発想ですから、簡単にはいきません。中国は持久戦という考えの元、トランプ氏があと5年で辞めたら逆転しようと準備をしているのではないかと思います。

日本はアメリカと同盟関係があり、中国とは切っても切れない経済関係があります。事実上戦争状態になっている大国の間で巧みに動かなければなりません。そのためにはもっと情報を持たなくてはいけないし、政治家に、国民が分かりやすい良い政治をしてもらう必要があると考えます。

最近私はインドに行き、色々な企業を見てきたのですが、インドがこれから大きな国になりそうです。平均年齢25歳、13億の国民がいます。中国は高齢化して少子化ですから、近々インドが中国を追い抜きます。日本の企業は中国に2万5000社ありますが、インドに進出している会社は2000社あるかないかという程度。こんなに大きな可能性がある国に対して、日本はもう少し理解する必要があります。ところがここ最近、日本のインドに対する関心が高まり、日本のベンチャーもどんどんインドへ出ています。話を聞くと、インド人は理屈が好きということで、そうすると日本の教育で学んできたことだけでは議論が足りないそうです。私は専門家ではありませんが、すぐ分かる、耳で聞けることをやってくださいという依頼で、ネットで毎日新しいことを短い時間でお話するというようなことを始めたいなと考えています。

我々自身が知識をアップして、正しい政治をしてくれる政治家を支える、そういう国をつくることが一番大切だということを、本日の結論にさせていただきます。

ありがとうございました。

卓話『ロータリー財団のすべて』令和2年3月9日

ロータリー財団委員会 委員長 安保 満様

ロータリー財団委員会 委員長 安保 満様

ロータリー財団の存在理由は「ロータリアンの小さな行為を大きな成果に繋げること」だと考えています。世界中200を超える国と地域、120万を超えるロータリアンからの寄付が一緒になって、単独のクラブでは不可能なポリオプラスや根絶のための活動、平和フェローシップ、平和の推進、紛争の撲滅などに取り組めているのだと思います。また、最も資金を必要としているところに提供してくれることも、ロータリー財団の大きな存在理由の一つと考えています。

寄付の種類

年次基金…地区目標 1人150ドル
恒久基金…地区目標 100人以上はベネファクター(1000ドル以上の寄付)2人
100人未満はベネファクター1人
ポリオプラスへの寄付…1人30ドル

いただいた寄付はロータリー財団が一定期間運用します。

年次基金の元金は、シェアシステムにより、3年後に各地区で50%、全世界で50%使用されます。合理的なシステムとルールの基に寄付が使われています。ロータリー財団は人頭分担金を一切いただいておらず、寄付を運用し、その運用益をロータリー財団の運営費や補助金に充てています。2014年2015年に皆様からいただいた寄付を3年間運用し、全世界の運営益は約2070万ドルでした。寄付が1億2380万ドルだったので、投資収益率は17%という非常に高い数値を示しています。

恒久基金の元金は使用せず、全額基金として積み上げ投資に回し、運営益を運営費用や補助金に充てる仕組みになっています。2017年2018年の運用益は3510万ドルで、総額は13億ドルです。2025年には20億2500万ドルを目標にしています。

年次基金は3年後に地区と世界で半分ずつ使われると申し上げましたが、補助金に充てる運用益も同様に分割します。地区に分割した資金を地区財団活動資金「DDF」、世界に分割した資金を国際財団活動資金「WF」と呼びます。

2018年2019年度2750地区のDDFは47万ドルでした。3年前の寄付の50%41万2000ドルと、運用益の半分の約5万9000ドルが合算されて、47万ドルと確定しました。使用できる上限は50%というルールはありますが、地区の裁量で比較的自由に使用することができます。当該年度に使用しなければ次年度に繰り越すことができることも特徴です。地区補助金の原資、またグローバル補助金の地区負担分の原資になります。

対してWFは、国をまたがる2つ以上のロータリークラブで行う国際奉仕プロジェクトに拠出されるグローバル補助金の原資、さらにロータリー平和センターの維持費や奨学金、ポリオ根絶の活動に使用されます。

具体的に見てみると、年次基金に2万円寄付をしたロータリアンがいた場合、運用益が3年間の累積投資で10%あった場合、シェアシステムによって11000円ずつに分割されます。地区に来た11000円の半分5500円は地区補助金に使われます。さらにその役半分2500円は地区の奨学金、残り3000円はグローバル補助金を申請したクラブに補助金として拠出されます。世界にいった11000円は、半分近い4500円はグローバル補助金を申請したクラブに補助金として拠出されます。残りの6500円は平和センターとポリオ根絶のための費用として使われます。

こうして見ると、皆様方からいただいた寄付は3年間運用され、その運用益とともに全て奉仕プロジェクトで使われるということがお分かりいただけると思います。

次に、ロータリー財団本部の財政状況についてご説明いたします。収入は皆様からいただいた寄付と投資収益他です。支出は補助金と、寄付推進のための費用、ロータリー財団を運営するための一般管理運営費があります。年間約3億9000万ドルの収入に対して支出は3億2847万ドル、7000万ドルほどが純資産の増加となります。収入の内訳は、年次基金、ポリオプラス基金、恒久基金への寄付で、投資収益の収入、寄付による収入などもあります。支出はポリオプラス、グローバル補助金、地区補助金、ロータリー平和センター、プログラム運営費、寄付増進費、一般管理運営費ということになっています。プログラム補助金は、ポリオプラスからその他補助金まで、純粋に補助金として拠出される部分ですが、全体の支出の84%、補助金を運営するために必要な運営費まで含めると92%を占めます。補助金以外の経費に関しては、実質的に投資収益で賄われているということになります。皆様からいただいた寄付は、その全てが補助金というかたちで使われているということが分かります。

最後に、ロータリー財団の第三者の評価についてご説明いたします。慈善団体の格付けを行うチャリティナビゲーターで、ロータリー財団は11年連続で、何千もある慈善団体の中で1%程度しか獲得できない最高評価の星4つをいただいております。財務健全性、説明責任、透明性、総合評価全て100点満点でございます。

ロータリー財団の高潔性や財務健全性、透明性を皆様にお伝えし、モチベーションを高めることで、「自分たちの財団である」と皆様が自信を持って言える財団でありたいと思っております。

ありがとうございました。

卓話『米中新冷戦の幕開け』令和2年3月16日

笹川平和財団 上席研究員 小原 凡司様

笹川平和財団 上席研究員 小原 凡司様

「米中新冷戦の幕開け」今、米中の対立構造がどのようになっているのかを中心にお話させていただきます。

最近の話題、コロナウイルスに関して中国と韓国の日本に対する態度の違いを見ると、韓国は日本と協力したいと言っていました。三・一独立運動では日本に対する批判を封印し、日韓で克服していこうという演説が行われました。しかし3月5日に日本が中国と韓国に対しての入国制限を発表したとたんに韓国は手のひらを返し、対日抗議と対抗措置までとると言い出しました。一方の中国は入国制限を理解できると言っています。この中国の態度は、今中国が日本との協力を必要としているのだということを表しています。

2020年2月18日に、アメリカの国務省が中国の新華社通信などのメディア5社を、実質的な中国共産党政権の宣伝組織であり、中国の外交機関であると認定しました。中国は対抗する形で、外交部の記者会見で報復だと認め、また「中国はアジアの真の病人である」と表現をした北京駐在記者を追放処分としました。これに対して今度はアメリカがメディア5社の記者数に上限を設けるなど、アメリカと中国はメディア合戦を繰り広げています。

中国はアメリカに対して敵対的にならないように積極的に世論工作を仕掛けてきました。これに対してアメリカは中国のパブリック・ディプロマシーを国内から排除しはじめ、また経済や軍事力を使って圧力をかけはじめました。中国は、経済的にも軍事的にも、二国間で対立してもアメリカには勝てないということをよく理解しており、ロシアと軍事協力をし、さらに欧州、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ、南太平洋島嶼国といった国々と協力をして、アメリカ対国際社会といった構図を作りたいと考えています。ただネックになるのはアメリカの同盟国です。ヨーロッパはアメリカと距離を置きたいということが少しずつ明らかになっているので、中国は盛んにアプローチをかけています。すると一番の問題は日本になるわけです。日米同盟が非常に強固であるということを中国は理解していますので、なんとか日本にアメリカと距離を取らせたいということが、今の中国指導部の政治面から考える日本との関係改善の動機だと思います。

アメリカが2017年12月以降に出した戦略文書の数々は、全て中国を批判する内容になっています。アメリカの安全保障の問題は「テロとの戦い」から「大国間の競争」へと大きく転換しました。国家防衛戦略では中国やロシアを修正主義とまで呼んでいます。インド太平洋戦略報告書では、さらに対中強攻姿勢を強化していますし、2019年5月に発表した中国軍事力に関する報告書でも、中国がいかに軍事力を増強しているかを述べています。今アメリカと中国が戦っている政治戦は、伝統的安全保障と経済安全保障が一体となった混沌とした状態のものです。2019年8月から米政府機関が中国5社の製品を調達することを禁止したことも大きな話題となりましたが、政治的な理由によって、しかも法的な手段を用いて国際市場を二分化するということになると、まさに冷戦の経済ブロックの二分化に近づいてくるのではないかと考えます。

2018円10月には、ペンス副大統領の、アメリカ中にある中国に対する不満をかき集めたようなスピーチが話題になりました。この時中国は、トランプ大統領が中国に敵対的なのではなく、アメリカが中国に対して敵対的なのだということを理解しました。今中国では、予測不能と言われていたトランプ大統領が実は予測可能で、結局金次第でどうとでも転ぶのだということで、二重の意味で救世主になる可能性が出てきたと捉えられています。すでに米中間ではディール始まっています。しかしこれ以上経済が悪化し、対米強硬ナショナリズムということになると、さらに米中の対立が進化することになりかねないという状況です。

昨年の11月にポンペオ国務長官が、中国と中国共産党を明確に分けて話をし、中国共産党は米国と相反するイデオロギーや価値観を持つ、マルクス主義の政党であり、闘争と世界制覇に標準を合わせていると批判しました。こうなってくると冷戦の3つの特徴である軍事的な競争、市場の分割、イデオロギー対立が明確になってきているのではないかと思います。ですから私は「米中新冷戦」という言葉を、警告の意味を込めて使っています。

2015年に発表された中国製造2025の序文では「18世紀半ばに工業文明が始まって以来、世界強国の盛衰と中華民族の奮闘の歴史は、強大な製造業がなければ国家と民族の共生がないことを証明している」と言っています。産業革命をおこした国が覇権を握るのだということです。中国は5Gを使って産業革命を起こしたいと考えていますが、ネットワークインフラ建設についても積極的に参入しており、こういったことに対してアメリカが警戒感を高めています。アメリカはすでに6Gをやり始めており、こういったアメリカの圧力に対して中国は、2019年の7月に出した国防白書で、「アメリカは国際社会の敵である」といた表現をしました。2015年には国家安全保障情勢といっていたものを国際安全保障情勢と名前を変え、アメリカは世界の安定を損ねているという言い方をしています。その上で中国はロシアと軍事協力をするのだと言い、先に申し上げたようなラテンアメリカやカリブ、アフリカ等の協力を挙げています。これは中国がアメリカと戦争をしたいと考えているのではなく、この政治戦を米中二国間だけでなく国際的に広げようとしているのではないかと思います。

対米姿勢を決めた後、中国とロシアの軍事協力は深化してきましたが、昨年の国防白書が発表される頃から顕著になっている言えます。建国70周年の記念大会では、「社会主義中国は世界の東方に巍然とそびえ立ち」という一文を用い、世界の東側にそびえ立つのが中国、西側にそびえ立つのはアメリカ、中国はアメリカと並びたつ存在であり、お互いに認め合って二つの大国が存在するという状況を望んでいるということを示しました。また情報作戦部隊による最先端の技術を使った無人機を披露し、中国国民に対して高い技術を示しました。こうしたものはアメリカに対するけん制にもなりますが、DF-41という最新鋭の大陸間弾道ミサイルを最後に見せたことは、中国が一番示したかったのがメリカに対する核抑止の能力だということを示していると思います。

昨年後半から、中国外交部等の人たちが日本へ来て、「習近平主席が日本に来た時にどういったアジェンダをすれば安倍首相は乗ってくれるのだろうか」ということを、聞いて回っていました。中国はアメリカが主導する経済ブロックから排除されるという危機感を持っています。だからこそ中国は自分たちのブロックを作ろうとしているということだと思います。中国の政策を支持する国は現在まだらですが、これが進むとブロック化するであろうというイメージができると思います。さらにネットワークのブロック化は、アメリカと中国がそれぞれ自分たちにとって有利なポジションを取ろうと動き、双方のエスカレーション・ラダーを上がっているという状況なのではないかと思います。

今の状況に対して日本はどうするべきなのでしょうか。アメリカと中国が双方ブロック化するということは、必ずしも日本の国益にはかなわないと思います。日本は多国間枠組みを常に支持していますし、市場原理に基づいた自由貿易を支持しています。それによって恩恵を受けている国ですから、米中の勝手なゲームを放置するだけではいけないのだと考えます。しかし日本単独でアメリカに十分な影響力を行使できるとは思えません。日米同盟における日本の重要性をより認識させるためには、第三のアクター、第四のアクターを国際社会の中に作るべきなのではないかと思います。ミドルパワーと呼ばれる欧州などの国々との協力を深め、東南アジア諸国をより統一された市場に見せる努力が必要だと考えます。そして、今中国が日本を必要としている状況をうまく利用するべきではないかと考えます。こうした協力をする上ではデータ分析が必要になりますが、今日本が持っている技術を使えばデータ収集・分析は可能になります。そうしたことを行っていく中で、日本の正しい政策を決定するベースにしていけるのではないかと考えます。

ありがとうございました。

卓話『ジョエル・ロブションとアラン・デュカス』令和2年3月23日

作家 宇田川 悟様

ご略歴
1947年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。作家。フランスの社会・文化・食文化に詳しい。フランス政府農事功労章シュヴァリエを受章、ブルゴーニュワインの騎士団、シャンパーニュ騎士団、コマンドリー・ド・ボルドー、フランスチーズ鑑評騎士の会などに叙任
著書に『食はフランスに在り』(小学館ライブラリー)、『パリの調理場は戦場だった』(朝日新聞社)、『吉本隆明「食」を語る』(朝日文庫)、『ニッポン食いしんぼ列伝』(小学館)、『ヨーロッパワインの旅』(ちくま文庫)、『フランス美味の職人たち』(新潮社)、『欧州メディアの興亡』(リベルタ出版)、『フランスはやっぱりおいしい』(TBCブリタニカ)、『フランスワイン紀行』『ヨーロッパ不思議博物館』『書斎の達人』『書斎探訪』『フランス料理二大巨匠物語-小野正吉と村上信夫』(共に河出書房新社)、『VANストーリーズ-石津 謙介とアイビーの時代』(集英社新書)、『フレンチの達人たち』(幻冬舎文庫)、『フランスワインとっておきの最新事情』(講談社+α文庫)、『フランス料理は進化する』(文春新書)、『超シャンパン入門』『東京フレンチ興亡史-日本の西洋料理を支えた料理人たち』(共に角川oneテーマ21)、『最後の晩餐-死ぬまえに食べておきたいものは?』『料理人の突破力-石鍋裕・片岡護・小室光博が語る仕事と生きかた』『覚悟のすき焼き-食からみる13の人生』(共に晶文社)、『ホテルオークラ総料理長小野正吉-フランス料理の鬼と呼ばれた男』(柴田書店)など多数
訳書に『旅人たちの食卓-近世ヨーロッパ美食紀行』『フランス料理と美食文学』(共に平凡社)、『父親はなぜ必要なのか?』(小学館)、2014年にノーベル文学賞を受賞したパトリック・モディアノ著『カトリーヌとパパ』(ジャン=ジャック・サンぺ絵 / 講談社)など
*写真展(「私が暮らした20年のパリ情景」、日仏会館、2016年4月11日~25日)

プロフィール(PDF:218 KB)

作家 宇田川 悟様

フランス料理の歴史は、料理人に焦点を当てると、150年の歴史の中で5・6人に絞られると思います。

ポール・ボキューズは、1950年代から60年代、フランスのリヨン郊外にあるフェルナン・ポワンのレストランで修業をしていました。ボキューズはのちに「料理の帝王」と呼ばれ、1976年にジョエル・ロブションを連れて来日しました。

フランス料理の歴史はブルボン王朝のルイ14世をスタートとして考えると、300年の歴史があります。オーギュスト・エスコフィエから現代までは約100年、その100年の歴史を見ていくと、20年か30年ごとに新しい革命が起こっています。

フランスの革命運動「68年5月革命」は1ヶ月で収束しましたが、この革命によりフランスは大衆社会になっていきます。その余波により70年代前半に勃発した「ヌーヴェル・キュイジーヌ」という新しい運動になりました。

グローバルスタンダードによってフランスも近代化しビジネス化していくうえで、従来の重たいフランス料理の簡素化が進みます。そしてヌーヴェル・キュイジーヌの最大の持ち味である「素材の素晴らしさ」「素材の良さ」という言葉が大きな影響を与え、軽い料理、軽いソース、調理の簡素化、加熱時間の短縮、料理の盛り付けなど、現在に続くフランス料理の基礎を形作ります。

ヌーヴェル・キュイジーヌのリーダーはポール・ボキューズで、1976年に出版したヌーヴェル・キュイジーヌのマニュフェストの本では、一つの要素として、今まで国内に閉じ込められていたフランス料理を国際化しようと言っています。そして70年代80年代には、中国の蒸し料理やインドの香辛料、日本の醤油や日本酒、みりんなどをヌーヴェル・キュイジーヌが取り入れました。しかし、どのような社会の革命でも同じですが、必ず過激と逸脱が出てきます。ヌーヴェル・キュイジーヌも、フランス料理の在り方にものすごい影響を与えましたが、最後はフランス料理の暗殺者と言われ、葬り去られました。

ジョエル・ロブションは田舎で育ったので、自然の食材の良さが分かっていました。そして厳格であり謙虚であり、堅実で誠実な人でした。彼はヌーヴェル・キュイジーヌのメリットをどんどん取り入れ、新しい技術や食材を取り入れることは大歓迎でしたが、インターナショナルな料理によってフランス料理のアイデンティティを壊されるのを非常に嫌っていました。当時三ツ星シェフだったアラン・デュカスは、1990年にシャンゼリゼに「スプーン」というワールドフードをコンセプトにしたレストランを出します。ヌーヴェル・キュイジーヌの遺産と、彼が育んできた地中海料理を上手く組み合わせたレストランです。保守主義が強いフランスにおいて大胆不敵な挑戦でした。一方、ロブションは一店至上主義で、特別なフランス料理店とは、自分がそこにいて料理をして、お客様に提供して食べてもらうこと。

それを他の店でやることは絶対にできない。だから多店舗を経営しているデュカスは特別な存在ではないと言っていました。ロブションの調理場は、厳格な規律をもとに、軍隊のようでした。緻密な料理を全員がマシンのように作っていきます。彼が調理場にいなくても済むという状況を作り上げ、のちにデュカスを反面教師として世界各地へ出ていくことになります。

ロブションを天才とするならば、アラン・デュカスは奇才です。デュカスの慧眼、凄さといのは、時代の流れをきっちり読み取れるところにあります。グローバライゼーションの中でフランス料理をいかに皆に提供していくかを思案した人です。フランスは日本のように食の世界が商業化されておらず、コマーシャリズムに侵食されていません。よって、フランス国内でレストランをチェーン展開することは難しい。しかしその中でデュカスは突破力を発揮し、そして完璧な調理場のシステムを作り、海外での拡大路線を目指しました。デュカスの料理哲学は他の分野にも通じることです。

映画「アラン・デュカス 宮廷のレストラン」は、彼がどのように仕事をしているのか、どのように料理を考えているのかが一目瞭然です。機会がありましたら是非ご覧ください。

フランス料理がグローバル化に晒されて、1990年代からものすごく低迷した時代がありました。それを脱却できたのは、ロブションとデュカスの二枚看板のおかげだと言っても過言ではありません。それほどの功績をあげています。

ジョエル・ロブションとアラン・デュカス――フランス料理のフロントランナーで活躍し、ロブションは残念ながら亡くなりましたが、デュカスの今後の生き方は、フランス料理の将来を考える上でも重要なものだと思います。

ありがとうございました。



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