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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2019年10月

卓話『日本財政を巡る課題-消費税10%以降を見据えて-』令和元年10月7日

法政大学 経済学部 教授 小黒 一正様

法政大学 経済学部 教授 小黒 一正様

法政大学で教授をしております小黒と申します。よろしくお願いいたします。

本日は、2015・2025・2040・2054年問題についてのお話、そして財政の現状、10月からの消費税増税の経済的なインパクトなどのお話をさせていただきたいと思います。

2015年は団塊の世代の方々が全員65歳以上になった年です。年金制度改革との関係で、政府が一番ターゲットにしていた年になります。次は団塊の世代の方々が全員75歳になる2025年がターゲットです。そして第二次ベビーブームに産まれた方々が65歳になり、生産年齢人口が1000万人減少するのが2040年。高齢化をしていきながら、支えている労働人口が減っていくというのが2040年です。2054年は、75歳以上の人口がピークを迎える年になります。そういった中で社会保障費の伸びがこれから加速していくわけですが、財政的に何が大変なのか。2016年度の医療費と介護費で見てみます。65歳から74歳までの方の医療費は一人当たり55万円かかっており、その中で7万円ほど公費を投入しています。これが75歳以上になると一人当たりの医療費が90万円になり、投入する公費も約5倍に膨らみます。介護費も似たような状況で公費が10倍に膨らみます。今新聞等で2040年問題が取り上げられていますが、実は2025年問題が大きな分岐点となり、この直近の問題をもう少し考える必要があると感じています。

日本の財政は大変だという話を聞いている方も多いと思いますが、簡単に計算するフォーミュレーションがあります。ドーマー命題と呼ばれるもので、財政収支の赤字(対GDP)と今後の名目成長率の見通しから、債務残高のGDP比の今後を予測するものです。現在の債務が1000兆円、GDPは500兆円ですので、現在はだいたい対GDP比で200%の債務になります。今年の7月に政府が発表した中長期試算によると、財政収支(対GDP)は2028年度2.3%の赤字になります。そして1995年から現在まで名目GDPの成長率を平均すると、0.4%ほどしかありません。もう少し成長率が上がることを期待して0.7%として計算すると、将来の債務残高(対GDP)は300%という厳しい数字が出ます。仮に成長率を1%程度まで引き上げ、同時に財政赤字を2%程度まで圧縮すると、今と同じような水準で維持できるという結果になります。ですので、相当大変だということが数字で見えてきます。

今年の10月に消費税が8%から10%へ上がりました。消費税導入が1989年、3%から5%へ引き上げたのが1997年、さらに2014年には5%から8%へ引き上げられ、そして今回2%増税となりました。過去増税のタイミングで経済に対してどれくらいのショックがあったのか。トレンド成長率と実際の成長率の乖離で評価すると、1989年には2.4%、1997年には1.5%、2014年には2.1%成長率が落ちました。1%あたりで見ると、1989年は0.8%、1997年は0.75%、2014年は0.7%となり、だいたい0.7%から0.8%のショックが一時的に経済に走っていることが分かります。今回は2%の引き上げなので、1.4%のショックが一時的に走るであろうことが予測できます。またトレンド成長率の時には伸びていたGDPが、1997年の金融危機、1989年のバブル崩壊により下がっていました。しかし2014年にはマイナスの状況から元に戻っており、今回再度引き上げるという判断ができたのだと思います。しかし今回の増税は止血剤に過ぎず、債務残高(対GDP)は1945年時の水準を超えて、まだ伸びつけているのが現状です。

2019年度の国の一般会計予算(約100兆円)の中で、一番大きな支出項目になっているのが社会保障関係費34兆円になります。税収の58兆円に対して、平成2年度には11兆円だった社会保障費が、平成29年度には30兆円をこえる水準まで膨らんでおり、それに伴い国債の発行が増えているという状況です。

政府は今から1年かけて、全世代型社会保障という形で改革を検討していますが、今後社会保障はどうなっていくのでしょうか。去年の5月に政府が出した社会保障給付費の見通しを見ると、2018年度で121兆円あった社会保障給付費が、2040年度には今から70兆円ぐらい膨らみ、190兆円ぐらいになるということです。現在(2018年度)のGDPは暫定値でだいたい560兆円となっており、これが2040年度になると、低い成長率のほうで790兆円になると見込んでいます。ですから、2018年度の社会保障給付費(121兆円)はGDP比で21.5%、2040年度の190兆円はGDP比で24%となり、約20年間で2.5%ポイント増えるわけです。今のGDPで消費税を1%引き上げると2.8兆円、対GDP比で0.5%の税収増となります。消費の構造が安定しているため、これは経済規模が変わってもあまり変化はありません。そうしますと、社会保障給付費が対GDP比で2.5%ポイント増えるということは消費税率換算では追加でだいたい5%引き上げる必要があります。

すなわち、2040年に向けて社会保障の改革の中でスリム化が期待できない場合、消費税で財源を賄おうとするとあと5%の引き上げが必要なわけです。軽減税率を入れると17%から18%引き上げる必要性が出てきます。ただ総理は今後10年間は消費税を上げる必要がないとも仰っていますから、社会保障を相当スリム化しなければならないということです。

国民負担率と社会保障の支出から各国をプロットすると、日本はかつて他の国と同じように、給付と負担が概ね一致する位置にいましたが、負担はあまり増えていないけれど(社会保障が充実し)給付だけが増えているという状況で、今は外れた位置にいます。給付と負担のバランスを大胆に見直すということが、全世代型社会保障を含めて必要になっています。こちらのインタビュー記事は、人口減少・少子高齢化が進む中、今後の財源は限られているので、本当に困っている人に国庫負担を投下すべきではないかというもので、東大名誉教授の吉川洋先生と御一緒に日本経済新聞(2019年10月4日朝刊)に掲載されたものです。

日本が抱えている問題は財政だけではありません。経済、安全保障の問題も非常に重要です。日系の自動車メーカーの生産台数はすごい勢いで増えています。そのような状況で日米の貿易摩擦が発生するのも分からなくはありません。しかし海外での生産が増え、国内生産は十分縮小しています。今後日本の経済の活力を維持するという意味では、財源としてどういうものを重要視していくかを検討しなければなりません。その一つとして消費税は重要な財源だと言えます。

また安全保障上、アメリカとの関係は非常に重要です。今中国が相当力をつけてきている中で、購買力平価ベース(流通している財・サービスの量で評価したもの)では、世界に占めるシェアが2014年に中国はアメリカを抜きました。アメリカが本気になって中国に立ち向かっているのも分からなくはありません。そのような状況で外交や安全保障もやらなければいけませんし、しかし当然その影響は経済にも受けるわけですが、その中で社会保障の問題も考えていかなければならないという状況です。

ご清聴ありがとうございました。

卓話『ファッションイベントと経費』令和元年10月21日

ファッションプロデューサー 浅野 則之様

ファッションプロデューサー 浅野 則之様

本日は下世話なお話になりますが、ファッションショーはどれくらいのお金がかかっているのか、ファッションのイベントはどれくらいのお金がかかっているのかというお話をさせていただきたいと思います。

私はかれこれ35年近くファッションに携わっております。パリコレに行くようになり、演出を手掛けるようになり、コレクションごとにパリに通うようになりました。パリに行くと色々なデザイナーの方がいらっしゃいまして、コシノヒロコ先生、コシノジュンコ先生といった日本人のデザイナーの方々、カステルバジャックさんやジバンシーさんといった有名な方の演出も長年やってきました。今はパリコレには行かなくなりましたが、恐らく100人くらいのデザイナーの方々と仕事をしてきていると思います。そして、世界中の有名どころのデザイナーやブランドを扱っているのは、日本では一番なのではないかと思います。

ファッションプロデューサーとはわかりにくい言葉です。海外でファッションプロデューサーというと、一体ファッションの何を作るのと言われますが、私がやっていることは、ファッションイベントプロデューサーです。クライアントから求められるファッションというテーマを、いかに世の中にちゃんと広めていくか、クライアントが求めるものを作りあげるかということをお手伝いしています。ファッションショーの場合は、洋服をいかに綺麗に見せるかという環境作り、会場の設定や照明、音響などのお手伝いをします。使用する照明によっては同じ赤でも違う赤に見えてしまうことがあり、デザイナーが求める赤にちゃんと表現すること、またモデルが歩く時に心地よく歩けるような音楽を選曲する、そして来られたお客様が心地よくいられるかというホスピタリティも大切になってきます。ショーの準備からお客様が帰るところまでがすべて私の仕事になります。

私は長くパリコレに通っていましたが、海外のブランドが日本に入ってくる際のファッションショーに限らず、新しい商品の発表会やお店のオープニングなども頼まれるようになりました。ラグジュアリーブランドも扱うようになり、ラグジュアリーブランドは世界展開していますので、使うお金は莫大です。例えばシャネルからインビデーションが届いたが都合が悪くて行けなかった場合、1枚のチケットの値段はいくらくらいだと思いますか。使った経費をお客様の数で割ると、1枚のチケットの値段が出ます。私が1990年にシャネルのショーを手掛けた際、使われた金額が3億6千万円、お客様は300名でしたので、1枚のチケットは120万円ということになります。

ファッションショー、ファッションイベントはどこにお金をかけるのでしょう。まずは場所代です。そしてセットという装飾を置きます。照明、音響の設備も必要になります。最近ではプロジェクション映像やLEDビジョンも大きな要素になります。ファッションショーの場合ですと、必ずモデルというものが入ってきます。モデルも、日本の場合は多少お安めですが、海外のスターモデルを使う場合は1回のショーで何百万、50人集めると1億以上かかることがよくあります。その他にパーティーやお店のオープニングなどは、来られたお客様へのホスピタリティとして、レストランやホテルからケータリングを入れます。そしてお客様をもてなす人、我々の運営人件費などが大きな要素になります。

ファッションショーは作り上げるまでには3、4週間かかりますが、ショー自体は15分から20分で終わってしまいます。たった15分から20分だけのために、莫大な費用と人と日数をかけるのがファッションショーです。

今から25年くらい前のファッションショーは、お金をかけたものでも1500万円から2000万円、通常は1000万円以下でした。その頃のファッションショーは非常に閉鎖的で、写真が漏れて真似されてしまうことを防ぐために、登録カメラマン以外の写真撮影は禁止されていました。それが2000年くらいからファッションショーがオープン化しました。インターネットの普及が大きく影響していると思いますが、ファッションショーに対する費用のかけ方も、今までの数十倍というお金をかけるようになりました。特に海外の場合はシャネルやディオール、ルイヴィトンなども、競うようにお金をかけ、それが目に見えるようにわかるようになりました。なぜそれだけお金をかけるかといいますと、目立つことをやる、話題になることをやることでメディアに取り上げられ、またSNSの普及により瞬時に世界中に配信されるようになったという背景があります。今のように高度な情報を発信するシステムがない時代は、ファッションショーをやっても出るメディアは限られていました。しかし現在は、広告換算をすると、1億をかけても100億で返ってくるということが分かってきました。ならば目立つことをやって、メディアに取り上げられ、世界中に発信しようという流れになっています。我々としても想像がつかないくらいの費用をかけていますが、それがファッション業界の現状でございます。

ご清聴ありがとうございました。



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