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国際ロータリー第2750地区 東京六本木ロータリー・クラブ The Rotary Club of Tokyo Roppongi

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卓話

2018年8月

卓話『混迷する中東情勢を読む』平成30年8月6日

出川 展恒様

NHK 解説委員 出川 展恒様

イスラエル・パレスチナ紛争の行方

イスラエルは、今年、建国から70年を迎えました。トランプ政権は、5月14日、アメリカ大使館をテルアビブから、イスラエルが「不可分の永遠の首都」と主張するエルサレムに移転しました。東エルサレムを「将来の独立国家の首都」と位置づけるパレスチナ側は激しく反発し、各地で抗議行動を行いました。1948年にイスラエルが建国されたことに伴い、パレスチナ人の多くは難民となるか、イスラエルの占領下におかれ、尊厳を奪われ、不自由を強いられてきました。長い対立を経て、1993年9月に「パレスチナ暫定自治合意」、通称「オスロ合意」が調印され、和平プロセスが始まりました。その最終的な目標は、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」です。イスラエルの主張は、「エルサレムは、未来永劫にわたって、東と西に分けることのできない、統一されたイスラエルの首都である」というものです。これに対し、パレスチナ側は、「東エルサレムは、イスラエルが国際法に違反して占領を続けている土地で、将来のパレスチナ国家の首都となるべきだ」と主張しています。この「エルサレムの帰属問題」こそが、和平交渉の最大の難題と指摘されてきました。大使館のエルサレム移転は、トランプ大統領の国内向けの政治的な思惑によるものです。苦戦が予想される秋の中間選挙を前に、大使館移転の公約を実行することで、自らの岩盤支持層を繋ぎとめる狙いがあったと言えます。

「エルサレムの帰属問題」を巡っては、過去に何度も歴史的な事件や衝突が起きています。2000年には、イスラエルのタカ派の政治家が、エルサレム旧市街の聖域に足を踏み入れたことで、パレスチナ側との大規模な衝突と暴力の応酬に発展し、和平交渉の挫折という結果を招いています。この問題は、人々の宗教感情を刺激し、イスラム過激派組織がテロを行う口実ともなります。現在、イスラエルとパレスチナの間では、和平交渉はおろか、対話も接触もできず、緊張を緩和する術がありません。

さらに問題解決を困難にしているのは、イスラエルが長年に渡って建設と拡大を続けてきたユダヤ人入植地です。パレスチナ側から見れば、将来、独立国家となるはずの領土が、入植地によって侵食され、領土の連続性も失われて、国家の体をなさなくなってしまいます。最近パレスチナ側で行われた世論調査によれば、「2国家共存による解決はもはや不可能だ」と答えたパレスチナ人が60%を上回りました。これまで和平を積極的に推進してきたパレスチナとイスラエルの指導者たちも、「2国家共存はもう不可能だ」と言い始めています。

和平交渉が完全に行き詰った現状で必要なことは、「オスロ合意に代わる新たな和平交渉の枠組み」を作ることです。「2国家がダメなら1国家で解決を」と言う人もいますが、現地の専門家は、「それでは解決にはならない。イスラエルがパレスチナ人を支配し差別する“アパルトヘイト国家”になるだけだ」と指摘します。ですから、時間はかかりますが、双方の市民レベルで信頼醸成を図り、和平を支持する世論を育てていく必要があります。パレスチナ人たちが絶望感を持たないよう、「国家独立への希望」を与え続けていく必要があります。国際社会は、パレスチナ支援、とくに、530万人を超えるパレスチナ難民への支援を絶やしてはならないと思います。

イランをめぐる問題

トランプ大統領は、5月8日、「イラン核合意」から離脱して、イランに対する独自制裁を再開し、過去最大級の経済制裁を行うと発表しました。その後、日本を含む各国に対し、原油の輸入を完全に停止するよう要求しています。なぜ、イランに厳しい対応をするのでしょうか。「イラン核合意」は、アメリカなど主要国とイランが、長い交渉の末、3年前に結んだもので、イランが核開発計画を大幅に制限する代わりに、主要国がイランに対する経済制裁を解除すると言う内容です。軍事衝突の恐れもあったイランの核開発問題を話し合いで解決するもので、「歴史的合意」と称賛されました。しかし、トランプ大統領は、「最悪の合意だ」とこきおろしてきました。10年から15年の期限付きの合意で、期限が切れた後、イランが核兵器の開発に踏み出す恐れがあると見ているのです。これを防ぐため、核合意から離脱し、イランと再交渉して、新たな合意を結びたいというのがトランプ大統領の考えです。イランの国家収入の1/3を占める原油輸出を遮断し、最大限の圧力をかければ、イランは、交渉のテーブルに着くだろうと考えているようです。トランプ大統領は、イラン核合意を破棄、または、大幅に見直すと公約していましたから、今回の離脱は、秋の中間選挙をにらんだ選挙対策の意味合いが強いと思います。

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ大統領の核合意離脱の決定を大歓迎しています。ところが、イスラエルの多くの専門家からは、別の主張が聞かれます。「アメリカが、イラン核合意から離脱し、経済制裁を再開した場合、イランも、合意にとどまる意味がないと判断し、離脱する可能性がある。その場合、イランは、再び核開発計画を加速させて、核兵器を手にする恐れがある。戦争に発展しかねない深刻な事態だが、はたしてトランプ大統領は、そこまで考え抜いて離脱を決断したのか」という疑問が、安全保障の専門家から出ているのです。

そして今、イスラエルが、最も差し迫った脅威とみているのは、イランが、隣国のシリアに軍事拠点を築いていることです。イランは、アサド政権を支援するため、シリア内戦に参戦しています。今後、シリアを舞台に、イスラエルとイランが直接衝突する恐れがあります。

日本にとって最も心配なのは、イラン核合意が崩壊する事態です。もしそうなれば、イランの核開発に歯止めがかからなくなり、サウジアラビアをはじめ、イランと対立する国々も、核開発競争を始める恐れがあります。ペルシャ湾岸で軍事衝突が起きる可能性が高まるでしょう。ペルシャ湾のホルムズ海峡を経由して日本に輸入されるエネルギーは、全体の85%を上回っており、もし、軍事的衝突が起きれば、日本経済に壊滅的な影響が出かねません。日本としては、ヨーロッパ諸国などとも協力しながら、現在の核合意を維持するため、最大限の外交努力を行うことが大切だと考えます。

中東情勢は、いま、大きな危機に直面しています。トランプ政権の無責任な中東政策が、混乱に拍車をかけ、いっそう解決を難しくさせています。日本としては、国連安保理決議をはじめ、国際的な約束に則って行動することが重要です。あわせて、戦争や紛争で傷ついている人たちに寄り添った支援を行うこと、将来の国づくりや人材育成に日本の知恵を活かした貢献を行うことが求められていると思います。

以上

卓話『2026年までの経済予測と企業経営』平成30年8月20日

渡辺 林治様

リンジーアドバイス(株) 代表取締役社長 渡辺 林治様

6月に集英社様から「2026年までの経済予測」を出版させていただきました。

世の中の変化に対してどのように対応策を準備し実行すれば、長期的に心安らかに生活を続けていけることに繋がるのか、2026年までの経済予測を踏まえた企業経営と資産形成というテーマで考えていきます。

この先10年の日本の社会や経済は、明治維新や戦後の歴史など、時代が大きく変わってきた時と似ているのではないかと思います。黒船の来航時はヨーロッパで産業革命が起き、日本の銀を中心とした通貨制度がアメリカやヨーロッパと繋がった影響で、日本の物価が高騰しました。またヨーロッパと日本の産業が競争をするなど、大変な時代でした。現在アメリカのAmazonやAppleというIT産業の流れや、トランプ大統領の出現などにより、時代が大きく変わってきています。その中で個人も含めてどのように活動していけばいいのでしょうか。

乱高下期に入った日本経済

2020年頃まで、経済は乱高下を続けるのではないかと考えています。2018年は各国で中央銀行の総裁の交代がありました。またアメリカでの中間選挙対策として、トランプ大統領は様々な政策を行っており、アメリカと中国の貿易摩擦も非常に強まっています。2019年には地方統一選挙、参議院選挙があります。5月には元号が変わり、ラグビーのW杯が予定されています。祝意の盛り上がりにより景気がよくなる事もありますが、その後の消費増税や2020年の会社員の増税などにより、経済の混乱のリスクが予想されます。

現在アメリカの経済制裁が様々な形で波及しており、中国の経済情勢が悪化しています。一方でアメリカは中間選挙を前に様々な政策が行われるであろうということで、経済については安心できない時期が続きそうです。

しかし2020年代に入ると、東京五輪後の不況対策を受け、景気が回復しやすくなると考えます。加えて、現在日本の企業では、持続的な成長を目指して積極的に設備投資を行い、雇用を増やし、研究開発をするというような企業行動「コーポレートガバナンス改革」が広まり、従来は守りの姿勢であった上場企業が、政府の政策によって全く変わりました。業績は好調で、設備投資や整備基盤を積極的に行っています。一方海外に目を転じてみると、2020年の大統領選挙に向けてアメリカで更なる景気対策や追加減税が行われるであろうと見られ、設備投資に関しても非常に前向きです。今後、金融機関への厳しい規制である「ドットフランク法」を見直すための法律が通ると、2028年のロサンゼルス五輪を旗印に、企業の設備投資、インフラ開発等に資金が回りやすくなることが考えられ、景気の拡大に向かっていくのではないかと思います。

繰り返されるバブルとその崩壊

これまでの主なバブルには、不動産バブルやITバブル、アメリカのサブプライムローンバブルがあります。一方で、日本経済が非常に厳しい時期は、急激な円高に繋がったプラザ合意、バブル崩壊、阪神淡路大震災、リーマンショックそして東日本大震災でした。そして今はどういう時期かと言うと、2014年の消費増税で悪化した景気が、ゆっくりと回復してきており、バブル期と崩壊のちょうど中間地点にあると言えます。ピーク時に景気が悪くなる場合、日経平均株価は5割を超えて下がることが多いですが、現在の景気を考えると、悪くなった場合でも下げ率は2割から3割にとどまるでしょう。

五輪開催に際しての注意点

多くのマスメディアでは、東京五輪の後、大きな不況に突入するのではないかという見方が出ています。しかし私は必ずしもそうではなく、景気が拡大するのではないかと考えています。一方で、過去の五輪を振り返ってみると、北京五輪の2年前に上海株価が急落しました。ロンドン五輪の1年前にはギリシャ危機や通貨危機などが起きています。リオデジャネイロ五輪では、経済全体の動きを表すGDPが2年続けて低下しています。以上のことから、五輪後よりも五輪前を心配したほうがいいことが分かります。今後としては、東京、パリ、ロサンゼルス五輪の前には注意が必要で、設備投資を行う時には、こうした歴史的な視点を持つことも必要でしょう。

資産形成と企業経営へのヒント

こうした不安定な経済状況が予想される中で、私たちはどう安定した資産を形成すれば良いのでしょうか。参考になるのが、国民の年金を運用する公的機関「GPIF」の運用手法です。GPIFでは、その資産を、現金や安全な国内債券で40%、その他国内株式や外国債券、外国株式をバランスよく保有しています。長期的な視点から年金を運用しています。

会社の経営においては持続的に維持発展することが大切で、そのためには売上げを増やす努力、収益性を維持すること、現金を十分に持っておくこと、さらに社会性を意識することが重要です。今時代が大きく変化してく中で、乗り越えていくためには様々な基盤整備も重要であると考えます。

個人の生活を守り、乱高下期を乗り切るために一番大切なことは、長期的な視点で考え、取り組む姿勢だと思います。

本日申し上げたことは、これから先10年起こりえることのひとつの仮説です。

皆様のお仕事が長く続き、またご家族の健康とともに、経済的により余裕を持った生活に繋がることを願っております。ありがとうございました。



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